「WHOの自殺報道ガイドライン」を日本のマスコミは知っているか

2013/08/22 20:00

先に発生した、ある「事件」に絡み、昨年のほぼ同じ時期に書き留めたいくつかの記事が思い返された。そこで今回はその記事を再構築し、資料を追加した上で、WHOが呈したガイドラインと日本の報道姿勢について、改めて事実確認をしてみることにする。

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今から10年以上前、WHOは世界へ自殺報道のガイドラインを発していた


次に示すのはWHO(世界保健機構、World Health Organization)が今から13年前の2000年に勧告した、「連鎖自殺を予防するための、メディアに対する自殺報道の有り方」(【PREVENTING SUICIDE A RESOURCE FOR MEDIA PROFESSIONALS(PDF)】)と、それをNPO法人自殺対策支援センターライフリンクが日本語にまとめた解説記事【「いじめ自殺」の報道について改善を求めます】からの抜粋である。

(報道が)
1)やるべきこと
・自殺に代わる手段(alternative)を強調する。
・ヘルプラインや地域の支援機関を紹介する。
・自殺が未遂に終わった場合の身体的ダメージ(脳障害、麻痺等)について記述する。

2)避けるべきこと
・写真や遺書を公表しない。
・使用された自殺手段の詳細を報道しない。
・自殺の理由を単純化して報道しない。
・自殺の美化やセンセーショナルな報道を避ける。
・宗教的、文化的固定観念を用いて報道しない。

元々一定の倫理観の基に、各国で自殺報道は行われていた。だが今件勧告がなされてからは諸外国もこれを参考に、あるいはこれを基にさらに厳しいガイドラインを設けており、関連報道には細心の注意を払っている。

さて。日本ではどうだろうか。上記に掲げられた、報道関係者ならば「為すべきこと」をどれだけ為しているか。「避けるべき」ことをどれだけ避けているか。ガイドラインを読み返した上で、現状の日本の報道姿勢を思い返すと、「むしろ逆の対応をしていないか」との感想が出る人も少なくないはず。

守られていない理由は多数考えられる。「ガイドラインそのものを知らない」「ガイドラインに従った報道にはコスト(手間暇)がかかる」「厳守した上で番組を作る方法を知らない」。そして何よりも「視聴率を稼ぎたい」「自分らが守っても他局・他社が行う。正直者が馬鹿を見る」というものだ。言い換えれば「赤信号、みんなで渡れば怖くない」。

何しろこのような報道は、人が注目しうる要素、具体的には「死に直結する危機的、緊急的な情報(生存本能が働くため、必然的に注目してしまう)」「他人の不幸を知ることで得られる間接的な幸福感」の双方が収まっている。「美味しい報道素材」として見られるのも当然というもの。

「知らなかった」「初めて聞いた」は通らない


上記理由のうち、「ガイドラインを知らない」との理由は通らない。いくつかの証拠事例を挙げておく。

【自殺予防 メディア関係者のための手引き(2008年改訂版日本語版)】
【平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究(PDF)】
【自殺対策白書】

●報道機関に対する世界保健機関の手引きの周知
マスメディアの適切な自殺報道に資するため、世界保健機関が作成した自殺予防に関する「自殺予防 メディア関係者のための手引き」(以下「手引き」という。)を報道各社に対し周知することとしている。

内閣府及び自殺予防総合対策センターのWebサイトに「手引き」を掲載して、その周知を図っている。また、自殺予防総合対策センターにおいては、メディア従事者を対象としたメディアカンファレンスを実施し、自殺や精神疾患について適切な報道がなされるよう支援を行っている。

中でも最後の「自殺対策白書」は毎年定期的に刊行され、そのたびにメディア報道に対する留意・啓蒙事項が設けられている。「知らなかった」では済まされない。

また昨年類似事件が発生し、一連の報道が問題視された際、NHK広報局に対して有志の方が問い合わせたところ(【「カンファレンスを実施」...WHOの自殺報道ガイドライン、日本のマスコミは「知らない」ことはありえない】)NHKの姿勢としては「日本放送協会番組基準 第1章・第9項」にある「人命を軽視したり、自殺を賛美したりしない」のガイドラインに従い、報道を行っているとの回答が寄せられている。

日本放送協会は、全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論と表現の自由を確保し、豊かで、よい放送を行うことによって、公共の福祉の増進と文化の向上に最善を尽くさなければならない。

(中略)

第1章 放送番組一般の基準
(中略)
第9項 風俗
1 人命を軽視したり、自殺を賛美したりしない。
2 性に関する問題は、まじめに、品位を失わないように取り扱う。
3 不健全な男女関係を魅力的に取り扱ったり、肯定するような表現はしない。

果たしてこのガイドラインに従っていると「第三者が公平な目で見た内容で」判断できる内容の情報をNHKは伝えているのか。さらにNHK以外の他局がどのような姿勢、対応をした上で報じ、その内容は上記にあるような注意事項・留意内容に適しているのか。その是非は視聴者一人一人が考え、判断すべきことであり、今記事では白黒はつけないでおく。

ただし、各報道で伝えられている通り、そして統計データの上でも裏付けられている通り、日本における自殺率は高い。WHOの統計データによれば、人口10万比の自殺率統計(2011年、取得最新値)では、日本は男性で11位、女性で5位(統計値が確認できる国は105か国)という高い位置にある。


↑ 人口10万人あたりの自殺者数(男性、2011年時点、WHO公開データ)


↑ 人口10万人あたりの自殺者数(女性、2011年時点、WHO公開データ)

日本がこのような高い値を占める理由は多様に挙げられて、または推測されており、一つに限定することは出来ない。しかし、もし仮に、「日本の報道の仕方」がこの自殺率の高さと相関、さらには因果関係があることが確認されたら、各報道機関はどのような姿勢、対応を見せるのだろうか。

もっとも。そもそも論として、そのような状況になったとしても、何らかの配慮・思慮を有する組織であるのなら、昨今のような状況にはないだろう。残念ながら「やればできる子」は滅多にいないのが、現状であると言わざるを得ない。

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