着工戸数はマイナス継続、床面積もマイナス継続…2024年1月新設住宅戸数7.5%減(最新)

2024/02/29 14:28

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2024-0229国土交通省は2024年2月29日付で同省公式サイトにおいて、2024年1月の新設住宅戸数の動向(建築着工統計調査報告)を各種データとともに発表した。それによれば2024年1月の新設住宅着工戸数は前年同月比では7.5%減の5万8849戸で、前回月から継続する形でマイナスとなり、8か月連続の減少を示したことが分かった。着工床面積は12か月連続のマイナスで11.5%の減少となっている(【国土交通省:発表リリース一覧ページ】)。

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数字上、中期的な流れの解説


戸数増減の具体的な内訳では持家が11.0%減と26か月連続の減少、貸家は2.7%増と増加、分譲住宅は16.1%減と減少の動きを示した。今回月は利用関係では持家と分譲住宅が減少、貸家が増加となった。細部まで見た項目別では分譲住宅のマンションの下げ幅がもっとも大きく24.8%減、公的資金による貸家の上げ幅がもっとも大きく7.0%の増との結果になった。

社会問題化し世間に喧噪を巻き起こした「耐震偽装問題」をきっかけに、大きな論争を経て実施された2007年の「改正建築基準法」。しかしその施行時において行政側による対応の手際の悪さや準備不足(確認用ソフトウェアですらまともに整備されていなかった)、そしてほぼ同時に顕在化した世界規模の金融危機・不況により、不動産市場は大いに萎縮する。さらに2008年秋に始まるリーマンショックを起因とする、追い打ちをかける不況が襲い掛かる。

それらの苦境を経て、2011年に入ると一部で状況好転の兆しも見られたが、同年3月に発生した東日本大地震・震災が再び市場へ冷や水を浴びせる形となる。その上以前から一部露呈していた「当時の」政府の失策・無策ぶりが、ここ数十年においては最大の非常事態とも表現できる東日本大震災において多方面で暴露される形となり、消費者の住宅需要に多用な変化をもたらした。

また、その震災に伴う消費者需要の変化に対応し、新しい需要の取り込みを狙った商品開発・展開も行われ、その動きに併せて既存の仕組みも連動する形で、進歩発展の動きを示している。そして昨今では景気回復期待・回復感もあり、不動産業界でも景況感の持ち直しが見受けられた。

実際、2014年2月分までの18か月は連続して新設住宅着工戸数が前年同月比でプラスを示していた。これもその景況感の回復の表れと言える。12か月=1年を超えたため、単純な「前年がマイナスだったので、その反動としてのプラス化」を超えた上昇気運であることは間違いない。その後2014年3月以降は同年4月からの消費税率改定に伴う需要縮小や景気停滞感から、12か月連続で前年同月比ではマイナスを示した。

2015年3月に入るとようやく13か月ぶりに前年同月比ではプラスに転じ、大きく盛り上がりを見せた後、同年9月以降はプラスマイナスゼロ近辺でのもみ合いにシフトしたが、それ以降は上昇の気運に転じていた。2016年6月は久々にマイナスを示したが、これは比較対象となる前年同月の2015年6月における前年同月比がプラス16.3%と大きな上昇を示していたことの反動とも評価できる。実際、2年前同月比を算出すると、13.5%のプラス、年換算では6.5%のプラスとなる。

昨今では2017年後半以降は勢いが減じ、マイナス基調となっている。実質的にマイナストレンドの中にあると断じてよい。新型コロナウイルスの流行以降、さらにその勢いは強まり、そしてそこから戻しを見せる気配を感じさせる状況が続いていたが、ここ8か月は連続してマイナスを示しており、トレンドが再びマイナス基調となったことが認識できる。

↑ 新設住宅戸数
↑ 新設住宅戸数

↑ 新設住宅戸数(2022年2月-2024年1月)
↑ 新設住宅戸数(2022年2月-2024年1月)

今回月は8か月連続の前年同月比でマイナス。前年同月における前年同月比はプラス6.6%であることから、反動によるマイナスへの押し下げの影響が生じていることもあり、マイナスとなってしまった。単純2年前同月比を試算するとマイナス1.41%(年換算マイナス0.71%)を示しており、わずかだがマイナスには違いない。

改正建築基準法の施行と金融不況のはじまりによる各値の下げ、リーマンショックによる下げ、併せてて2段階の下落を経験したのち、東日本大地震・震災以降は下落、リバウンドによる上昇を繰り返していた。2012年の夏に数か月にわたる下落を記録してからは、昨年の下落の反動を受けての底上げも併せ、プラスの動きを示している。2012年10月に直近のピークを迎え、それ以降はプラスの幅は縮小していた。

・耐震強度偽装問題を踏まえた
「改正建築基準法」施行(2007年6月)

・「新築」住宅市場大規模収縮
低迷期
・2008年夏で底打ち
 「前年比」でプラスに
・2008年10月再び下落・失速へ
(リーマンショックの影響)

2009年3月以降低迷、その後回復へ。

震災発生で不透明感。
消費者マインドの変化に応じた
新たな需要の発生。
消費税率引上げの駆け込みと
反動を乗り越え、
現在は景況感の実体化によるプラス、
そして消費税率引上げを受けて
状況悪化、マイナス。
1年を経て復調したが
その後勢いは停滞、軟調。
昨今では回復の兆しも失速感。
ところが2013年5月からは直前の動きから転じて、プラス幅も大きなものとなった。本格的な住宅市場の活況化が体現化したといえる。また2014年4月からの消費税率引上げに伴い、引渡しや代金支払い(の一部)が2014年4月以降にずれこんでも、2013年9月末までに工事請負契約を締結していれば、適用税率は5%のままという経過措置が取られたことで、2013年9月までの数か月間は「駆け込みラッシュ」的な動きが見られた。

実際適応期間の最期の月2013年9月は大幅増のプラス19.4%、その翌月10月はプラス7.1%と上げ幅を縮小。その次の月にあたる11月はさらに上げ幅を縮小するとの懸念もあったが、フタを開けてみれば再び大幅増と相成った。そしてそれ以降もプラス圏での推移は続いていたが、2014年2月には失速する形でプラス1.0%にとどまり、そして3月にはついにマイナス2.9%に転じてしまった。以後、4月から2015年2月に至るまでマイナスは継続していた。その後、ぶり返し的な大きいプラスを示した後は失速、もみあいの状態にシフトする形となっていた。

上記の通り2016年6月は前年同月の反動もありマイナスに転じたが、概してその後は起伏を見せながらもプラスを維持していた。しかし2018年1月から3月にわたり単なる前年同月比だけでなく、2年前同月比もマイナスを継続していたことから、実質的なマイナストレンドへの転換は確定したと見てよい。2019年10月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要すらほとんど見られなかったのが実情で、すでに2019年4月以降において冷え込んでいると表現してもよい。昨今では新型コロナウイルス流行の影響を受け、一段と冷え込みが厳しくなっていると読み解くことができる。

一方で、前々年同月比でプラスを示す月が続かないと、回復したとは判断できないのが実情ではある(単なる前年同月比では反動による動きでしかない可能性もある)。一応、2022年2月以降、単純前々年同月比でプラスは維持されており、回復したと見てもよい状況ではあったのだが。ここ10か月は連続して前々年同月比でマイナスとなり、再び不調な状態に戻ってしまったと判断してもよい状況となっている。

昨今の動向・斜め読み


不動産全般の視点で昨今の動きとして目にとまるのは、「耐震・免震性」「節電・創電」など、震災の経験を元に大きな注目を集めているテーマを捕えた住宅が通常化しつつあること。「住宅新築の際には、可能ならばエネルギー関連に配慮した設備を取り入れたい」との意思を持つ住宅購入希望者は多く、売り手側としても絶好の機会到来となる。元々これらの機能は住宅向けサービス・オプションとして存在していたが、震災をきっかけに加速度的に浸透を深めつつある。

関連する新商品や関連サービスも続々と開発・展開され、さらに昨今では景気回復感への期待から、不動産業も活況の気配を見せ、資金と商品が回り始めている。住宅の建て替え、整地を経ての新設なども以前と比べて増加しているのが実感できる。

新築分譲中昨今の住宅建設市場に対するマイナス要因として考えられるのは、消費心理そのものの低下(家計事情の変化が起因、就業継続の不安によるローン構築への疑念、消費税率の引上げ)、購入を検討していた地域不動産における、地震などの天災リスク再検討に伴う購入留保の動き。

消費税率改定を経て、住宅関連の各指標は急成長から横ばい、そして強い低迷感に移行。そしてその後の回復が見えてこない状況が続いており、不安を覚えさせる。昨今では昔の建築様式による住宅で、税金の問題から仕方なく存続させているものの、空き家状態が続いている廃墟的な物件の増加が問題視されており、これにまつわる行政の施策を促進する特別措置法「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2014年11月19日に成立している。そして2015年5月26日に全面施行が行われたことに絡み、国土交通省でもガイドラインを発表している(【空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(国土交通省)】)。今後この方の適切な運用により、住宅事情に刺激が与えられる可能性もある(【空家数増加の実態をグラフ化してみる】【空家等対策の推進に関する特別措置法が無事成立】)。ただし現状ではその効用が生じたような動きは、少なくとも建築着工統計調査報告からは見受けられない。

近居の勧誘ポスターまた【都市部在住の人に聞きました「地方移住はアリ?」4割は「考えてもいいカナ」】などでも解説しているが、将来の人口漸減、地方の過疎化問題に関し、都市部在住者の地方移住啓蒙策や、地域の居住地域に関する都市計画の見直しも検討されており、中長期的に住宅事情が大きく変動する可能性もある。さらに昨今では同居は社会観の変化から難しいものの、近居ならば許容できるとのことから(【現在同居中5%、同居意向あり13%、近居ならOKは15%…親世代との同居・近居事情】)、親世帯との近居スタイルを勧める形での提案型住宅も増加しており、注目に値する。

震災をきっかけに消費性向、人々の生活スタイル・考え方が、震災以前と比較すると保守的・中庸的・地域コミュニティを重視する動きを見せている。そして高齢化社会・核家族化の加速化で、物理的な行動範囲の狭いシニア層比率が増えたのも、保守化志向・地域社会重視の原因の一つに他ならない。それら人々の「心の動き」「自分が住む周辺地域に対する評価の再確認」が、住宅需要の変化をもたらしている。

住宅を提供する側も、その変化に対応した取り組みが求められる。住宅そのものだけでなく、バリアフリー、買物困難者の問題など、内部施設、地域サービスまで含めた、包括的環境整備の観点からの「住まい」の提供(狭い範囲ではなく、広い範囲での「住環境」の提供。上記の「近居」もその一形態)も、動きを見せてくる。そこには不動産業界だけで無く、小売、福祉など複数の業界を巻き込んだ、総合的な流れ、連携の動きが伴うことになるだろう。

なお2020年の初頭以降夏ぐらいまでは【豊島園駅のトイレ工事が延期になった理由】【落ち込む輸入の原因】などでも解説している通り、新型コロナウイルスの影響で中国などからの機材が滞り、住宅建築の目途が立たないとの話が相次いだ。昨今では新型コロナウイルス流行からの復興による需要の拡大と、脱炭素の動きの影響を受け、さらに流通網の混乱も加わり、再び住宅建築機材不足が生じている。流行による景況感の急激な悪化も大きく足を引っ張っている。さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争と、それが主な原因となっている資源価格の高騰も大きな影響を与えている。着工数も小さからぬ圧力を受けていることは容易に想像できる。

新型コロナウイルス流行と、ロシアによるウクライナへの侵略戦争がひと段落つかなければ人は動けず、お金も動かず、経済は落ち込んだままで、住宅への資金流入も元に戻らないのが実情に他ならない。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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