「母さん助けて詐欺」の名称は適切か否か、データを確認してみる

2013/05/20 11:30

振り込め詐欺先日【「振り込め詐欺」の新名称「母さん助けて詐欺」などに決定…警視庁発表】でお伝えした通り、警視庁は2013年5月12日、いわゆる「振り込め詐欺」の新しい名称として公募作品の中から「母さん助けて詐欺」を最優秀作品として選別。他に「ニセ電話詐欺」「親心利用詐欺」も選出した。ところがこの名称に、発表直後からネット界隈を中心に賛否両論が沸き起こっている。いわく「共感が難しい」「実情を適切に表していない」という意見が目立っている(一例:【「母さん助けて詐欺」のネーミングに賛否両論 ネット上では「共感できない」の声強く 警視庁は「賛否あるのはごもっとも」(産経ニュース)】)。当方の記事にも似たようなツッコミがあった位だ。そこで今回は、いくつかのデータを基に、この名称の妥当性を探ることにした。

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そもそも「母さん助けて詐欺」(「振り込め詐欺」)とは?



↑ 今件を伝えるニュース映像(公式)。【直接リンクはこちら】

「母さん助けて詐欺」は警視庁(東京都を管轄する警察本部)が決めた名称で、これまでの「振り込め詐欺」に併用される形となる。国レベルでの警察行政などを取り扱う警察庁が決めたものではないため、東京都以外では使われない。

また、「母さん助けて詐欺」の元名「振り込め詐欺」だが、基本的に次の4つのものに分類される。「振り込め詐欺」=「オレオレ詐欺」ではないことに注意。

●振り込め詐欺
かつてはATM経由で現金を振り込ませてだまし取る犯行だったが、啓蒙などが進み、現在では7割ほどが手渡しによるものに。次の4タイプを合わせた総称。

1:オレオレ詐欺
親族、警察官、弁護士などを装って電話をかけ、会社の横領金の補てんや借金の返済などを名目に、現金を預貯金口座に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺など。

2:架空請求詐欺
郵便、インターネット、メールなどを利用して、不特定の者に対して架空の事実を口実とした料金を請求する文書等を送付するなどして、現金を口座に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺。インターネットや携帯電話普及当時は大きな社会問題化した。昨今では警察庁の確認件数においては減少中。

3:融資保証金詐欺
実際には融資しないにもかかわらず、融資を受けるための保証金などの名目により現金を口座に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺。最近では件数、被害金額共に減少中。

4:還付金等詐欺
市町村の職員などを装い、税金の還付などに必要な手続を装って被害者に現金自動預払機(ATM)を操作させ、口座間送金により振り込ませる手口の電子計算機使用詐欺。

(警察庁発表資料より抜粋、編集)

さて、元々今回の名称公募・決定は、被害を受け得る人たちが、その手法を想像しにくいことを原因としていた。そして要件として

・現金をだまし取る方法が振り込みに限らないことが理解できること
・被害者を不安にしパニックに陥らせるものであることが直感的に理解できること
・高齢者にも理解できる語句を用いること
・公序良俗に反しない表現であること

が掲げられていた。世間全般への認知はもちろんだが、被害者予備軍に理解し、備えてもらう、啓蒙をするのが第一義的なものとなる。

主な対象者はどのような層だろう?


それでは実際、「母さん助けて詐欺」(「振り込め詐欺」)はどのような人たちが対象となっているのだろうか。「母さんじゃなくて父さんも沢山いるじゃないか」「若者だって多く被害を受けているかも」というのが、今件での否定派の意見するところなのだが……。

警視庁では該当する資料が無いため(全体件数や被害総額は「「振り込め詐欺」の新名称「母さん助けて詐欺」などに決定…警視庁発表」にある通り)、全国管轄での警察庁で探したところ、【警察庁の統計資料一覧】から、確定値としては最新の「特殊詐欺の認知・検挙状況等について(平成23年・確定値)」を見つけることができた。この中から「振り込め詐欺」、そして中でも特に「母さん助けて」に近い「オレオレ」の2011年における被害者の性別・世代別構成をグラフ化したのが次の図。

↑ 「振り込め詐欺」被害者の年齢・性別構成(2011年確定値)(警察庁)
↑ 「振り込め詐欺」被害者の年齢・性別構成(2011年確定値)(警察庁)

↑ 「オレオレ詐欺」被害者の年齢・性別構成(2011年確定値)(警察庁)
↑ 「オレオレ詐欺」被害者の年齢・性別構成(2011年確定値)(警察庁)

「振り込め」全体では「融資保証」などがあるためやや男性比が多くなるが、それでも圧倒的に女性、しかも50代以上に集中しているのが分かる。「振り込め」では62.9%、「オレオレ」に限ると75.6%と3/4以上が中堅層以降の女性。まさに(大抵において加害者が成りすます)成人男性から「母さん」と呼ばれる対象であり、「母さん助けて詐欺」が実情にマッチした、見方を変えれば「被害を受け得る人に対し、明確にアピールをした」名称であることが分かる。しかも突然「助けて」と言われれば、「不安にしパニックに陥」いってしまうのは容易に想像できる。

警察庁の統計資料一覧を見返すと、5月1日には類似フォーマットで2013年1-3月分の速報値が公開されている。こちらも同じ様式で精査を行うと次の通りとなる。

↑ 「振り込め詐欺」被害者の年齢・性別構成(2013年1-3月)(警察庁)
↑ 「振り込め詐欺」被害者の年齢・性別構成(2013年1-3月)(警察庁)

↑ 「オレオレ詐欺」被害者の年齢・性別構成(2013年1-3月)(警察庁)
↑ 「オレオレ詐欺」被害者の年齢・性別構成(2013年1-3月)(警察庁)

「振り込め」では64.6%、「オレオレ」に限ると74.6%。速報値でも2011年時点と状況に大きな変化はない。相変わらず中堅層以降の女性が主なターゲットとされており、「母さん助けて」が適切であることが再認識できる。



ATMから現金を出し入れしたり、手渡しする機会は主に昼間。その時間帯に未成年者の多くは学校におり、成人男性は職場で働いている。女性も中堅層位まではパートにいる場合が多い。必然的に電話に応対し、加害者グループのワナにハマるのは、中堅層以上、特に女性が多いことになる。被害者に高齢女性が集中するのも当然の話(さらに加えると、女性は母性本能から、子供の助けには敏感となり、冷静な判断をし損なう可能性が高くなる)。

電話機「中堅層以降の男性もそれなりに」という意見もあるだろう。しかしその場合、「父さん母さん助けて」としたのでは焦点がぼけてしまい、さらに名称そのものが長くなる。主にインターネット上では自分自身が該当せず、あるいはあまり縁のない(層への)話なだけに、「母さん助けて」を否定したくなるのも理解できるが、実情と効率性を考えれば、まずは「一番被害の多い層に啓蒙を行う」のがもっとも効果を期待できる。

……あるいは一連の「批判の声」ですらも、言葉そのものの話題性を集めさせ、認知してもらう過程における、想定の範囲内の動きなのかもしれない。


■関連記事:
【オレオレ詐欺、最大の防止策は「ゆっくり考えていってね」】(2008年10月)

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