雑誌や書籍の支出金額…購入世帯率や世帯購入頻度の移り変わり(家計調査報告(家計収支編)・二人以上世帯版)(最新)

2023/05/16 02:45

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2023-0507デジタル媒体の伸長とともに、さらには金属疲労的体質の変容に伴う品質の劣化に伴い、新聞をはじめとした紙媒体が、かつて有していた勢いを減じているのは、多方面の状況変化、各種調査結果から明確な形として表れている。またその変化も一様なものではなく、各媒体毎にその特質に連動する形で差が生じている。今回は総務省統計局が2023年2月7日付で発表した、【家計調査報告(家計収支編)における2022年分平均速報結果】を基に、世帯の大部分を構成する「二人以上世帯」における、週刊誌や雑誌、書籍など紙媒体に対する支出額の推移を確認し、状況の把握を行うことにする。

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買う人が少なくなり、買われる頻度も減少する紙媒体


グラフ作成に用いるデータの取得方法などは、これまでの「家計調査報告(家計収支編)」関連の記事にある通り。また「購入世帯率」「世帯購入頻度」などの言葉の概念は、今記事と深い関係のある先行記事【雑誌や書籍の支出金額(家計調査報告(家計収支編)・総世帯版)】【雑誌や書籍の支出額金】にて解説しているので、そちらを参照のこと。

まずは主要紙媒体の購入世帯率を世帯単位で示したのが次のグラフ。各年ごとに、世帯単位で該当媒体を買った人がいるかいないかの割合。1年の間に1部・1冊でも買えば該当することになる。全世帯が購入すれば100%となるので、最大値は100%(実際には今件の年ベースの「購入世帯率」の値は各月調査結果の平均なので、あくまでも概念的な指標。例えば12人の人がそれぞれ別の月に1冊だけ買い、他の月には買わなかった場合、年平均は8.3%(1÷12)となるが、12人全体として「年1冊以上買った」人の割合の実態は100%となる)。

↑ 主要紙媒体の購入世帯率(二人以上世帯)
↑ 主要紙媒体の購入世帯率(二人以上世帯)

新聞の購入世帯率は(今データの領域では)2002〜2003年の78.6%が天井。それ以降は毎年少しずつ、そして確実に減少している。今では「5割近くの二人以上世帯は新聞を取っていない」状態。一方で雑誌、書籍、その他の印刷物も少しずつだが減少を続けている。雑誌は今世紀に入ってから10%ポイント以上も減ってしまった。特に2012年以降は減少度合いが加速している。今や二人以上世帯では、10世帯のうち9世帯近くが「1年間に1冊も雑誌を買っていない」計算になる。

続いて世帯購入頻度。こちらは分かりやすいように月あたりで、どれぐらいの世帯が各媒体を購入しているかを示したもの。新聞の場合は自宅に投函してもらうタイプは「1か月分の契約」で1購入と換算する。例えば1か月31日分投函してもらったから100×31=3100%となるわけではない(要は定期購読の契約率と見ればよい)。

↑ 主要紙媒体の世帯購入頻度(二人以上世帯、月あたり)
↑ 主要紙媒体の世帯購入頻度(二人以上世帯、月あたり)

2002年から2005年までは新聞の世帯頻度が100%かそれに近い状態だったが、それ以降は少しずつ減少を続けている。母体数が大きいから、数としては膨大なものになるのはいうまでもない(【新聞の発行部数動向】参照のこと)。先の「購入世帯率」と見比べると、購入世帯の減少分がそのまま世帯購入頻度の低下にもつながっていることが分かる。つまり駅売りなどで販売される新聞には「大きな」変化は無いと考えられる。

直近の2022年においては、新聞では購入世帯率同様、世帯購入頻度も減少している。2012年は多少イレギュラーの可能性がある動きを示していたが(購入世帯率は落ちたものの、世帯購入頻度は上昇した)、やはり特異な事例、ぶれの範囲だったようだ。あるいは震災の影響や新学習指導要領の影響の可能性はある。もっとも2005年にも似たような現象が確認されており、驚くほどのものでもない。

他の紙媒体も状況的にはさほど変わらないが、雑誌が2009年に多少持ち直しを見せているのが目にとまる。このグラフの値は「金額」ではなく「購入された度合い」を示すので、この業界にとってはポジティブな話といえる(要は世帯単位での購入者が購入頻度を増やした)。しかし残念ながら2010年・2011年は再び大きな減少を見せ、2009年の持ち直しも帳消しとなった。それどころか2011年以降は下げ方が加速している。

この下げ方に加速がついた原因の一つとして考えられるのが、先の震災。これを起因と断言することはできないものの、タイミングは一致しており、要因の一つである可能性は高い。あるいは同時期に日本国内におけるスマートフォンの爆発的な普及率の上昇が始まっていることから、むしろこれが多分に影響した可能性はある。いずれにせよ相関関係レベルでの推測であり、因果関係を立証するものではない。

書籍が2018年以降3年連続して前年比で増加していたのが確認できる。同時期の購入世帯率はほぼ横ばいでの推移なので、書籍を購入している世帯(人)がより積極的に購入する動きが生じていたようだ。

媒体毎に世帯購入頻度と購入世帯率をまとめてみる


「世帯購入頻度」と「購入世帯率」の関係が分かりやすいように、新聞、雑誌、書籍それぞれについて抽出し、再構成したのが次のグラフ(他の印刷物は構成内容が雑多なので省略する)。

↑ 新聞の世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)
↑ 新聞の世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)

↑ 雑誌ーの世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)
↑ 雑誌の世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)

↑ 書籍の世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)
↑ 書籍の世帯購入頻度と購入世帯率(二人以上世帯)

新聞は購入世帯率の減少がそのまま世帯購入頻度の減少につながっている形。また雑誌は購入世帯率以上に世帯購入頻度の減少度合いが大きく、(新聞のように宅配による定期購入はあまり無いことから)「購入しない人が増えているだけでなく、購入者も購入冊数を減らしている」ことが推し量れる。とりわけ2011年以降の世帯購入頻度の下落率がキツい。一方、今件項目中では書籍が購入世帯率、購入頻度ともに減少の度合いは一番大人しい。2018年以降は購入世帯率がほぼ横ばい、世帯購入頻度はむしろ上昇の動きを示している(2021年以降はわずかに失速しているが)。上記でも言及したが、普段から購入している世帯(人)がより積極的に書籍を購入するようになるムーブメントが起きていた感はある。



冒頭で触れた通り、この数年はことさらに紙媒体の販売不振ぶりが取りざたされている。しかし今グラフを見る限り、多かれ少なかれその動きは「不調」が声高に叫ばれるよりさらに昔から生じているのが分かる。昨今の問題とされている事象は「昨日今日に始まったもの」ではなく、「前々から存在していたもの」で、それが顕著化・加速化しただけに過ぎない。

また、最後のグラフ群のうち新聞や雑誌の推移を見れば分かるが、2005年前後を境に、特に世帯購入頻度の値の減少が加速している。景気後退はもう少し後で、直接起因とは成りえない。この減少の理由はといえば、やはり携帯電話をはじめとするモバイル系情報端末の普及が影響していると見て間違いない。また本文で触れている通り、(特に移動過程の時間潰しとして)容易に代替されうるスマートフォンの普及が、雑誌や週刊誌の世帯購入頻度や購入世帯率の減少の加速を招いた可能性は多分にある。

紙媒体は電子媒体と比べて購入ハードルが高い。「一人でも多くの人に定期的に購入してもらうこと」はとても重要である。新たな競合相手の登場、躍進で、日に日に過酷化する競争において、今後いかなる戦略のもとにかじ取りをしていくか。その結果は少しずつ、確実に今件データのような各調査結果に表れることだろう。


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