フルタイムの平均賃金は31万1800円・前年比でプラス1.4%(最新)

2023/04/25 02:49

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2023-0418生活を営む上で欠かせない、糧(かて)となるのが、就業で得られる賃金。その賃金の額は自分自身のものはもちろんだが、社会全体の動向も気になるところ。厚生労働省では2023年3月17日に、その賃金関連の情報を集約した、2022年における賃金構造基本統計調査結果の概要【令和4年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況】を発表したが、それによれば2022年の一般労働者(フルタイム労働者。常用労働者のうち短時間労働者でないもの。正規・非正規を問わず)の所定内賃金(所定内給与額)は31万1800円となり、前年2021年の30万7400円と比べて4400円・1.4%のプラスを示したことが明らかになった。

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まず言葉の定義を確認しておく。まずは今記事で対象となる「一般労働者」について。


↑ 雇用形態関連の分類
↑ 雇用形態関連の分類

・常用労働者…期間を定めずに雇われているか、1か月以上の期間を定めて雇われている労働者。

・一般労働者…短時間労働者以外の労働者。

・短時間労働者…同一事業所の一般労働者より1日の所定労働時間が短い、または1日の所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない労働者。

「一般労働者」は正規社員(・職員)以外に、派遣・嘱託・契約社員などの非正規社員(・職員)も含まれうることに注意が必要。

今回記事で動向の確認をする「賃金(所定内給与額)」とはあらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給された現金給与額(決まって支給する現金給与額)から、超過労働給与額(要は残業代)やボーナスなどを除き、所得税などを控除する前の額を指す。言い換えれば基本給に家族手当などを足したもの。

公開されたデータを基に、1989年以降、今回新規に発表された20221年分に至るまでの賃金額と前年比推移を示したのが次のグラフ。なお2020年分調査から一部で推計方法が変更されており、その方法に基づき2019年分もさかのぼって再計算されている。よって2018年分までと2019年分以降との間には、厳密には連続性はないことに注意が必要となる。

↑ 男女別賃金(一般労働者、千円)
↑ 男女別賃金(一般労働者、千円)

↑ 男女別賃金の対前年増減率(一般労働者)
↑ 男女別賃金の対前年増減率(一般労働者)

賃金推移のグラフには直近年の値の他に、各属性の最高値(直近年以外の場合)、そしてデータが存在するうちでもっとも古い1989年の値を併記している。この推移からも分かるように、女性の賃金は堅調な上昇ぶりを示している。2005年と2010年、そして2013年は前年比マイナスを示したが、それ以外はすべてプラス。1980年から1990年代と比べて上昇幅こそ縮小してはいるものの、上昇傾向にあることに違いはない。

一方で男性は1990年代半ばまでは女性同様に大きな上昇カーブを描いていたが、それ以降は頭打ち。2001年の34万700円を一つのピークとして、それ以降は漸減の動きすら見受けられた。

これは女性の社会進出・価値観の変化とともに、【日本の学歴・年齢階層別失業率】【非正規社員の現状】で解説したように、正規社員の減少・非正規社員の増加も一因。今件の「賃金」の対象には(短時間労働者は除外されているが)正規・非正規双方の社員が該当している。たとえ正規社員・非正規社員双方の給与がアップしても、(支払額の大きい)正社員数の比率が減れば、その分全体の平均値は下がってしまう。女性は元々非正規社員率が高いため、男性同様に非正規社員が増加しても大きな影響は生じない。

このような動きに伴い平均的な一般労働者における男女間の賃金格差は縮小に向かいつつある。

↑ 男女間平均賃金格差(一般労働者、男性=1.00の場合の女性の賃金)
↑ 男女間平均賃金格差(一般労働者、男性=1.00の場合の女性の賃金)

もっとも古いデータとなる1989年時点では女性の平均賃金は男性の約6割。それが直近では7割台後半にまで上昇している。男性の賃金が横ばい、女性が上昇している以上、その差が縮まるのは当然の話で、全体的な評価は難しいところではあるが、女性の平均賃金が上昇すること自体は喜ばしい話に違いない。

直近の2022年では、男性は前年比でプラス1.4%なのに対し、女性はプラス2.1%。そして全体ではプラス1.4%となっている。

【過去70年あまりにわたる消費者物価の推移】などで解説している通り、1990年代以降物価は概して安定の傾向にある。ただし2014年から2015年にかけては消費税率の引上げに伴い、物価も上昇している。またこの数年はいくぶんながらも上昇傾向にある。

↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(1991年以降、2022年分は直近月の値)(再録)
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(1991年以降、2022年分は直近月の値)(再録)

お金はその額面の絶対値の他、購入できる物資・サービスの量でも価値を判断するため、例えば賃金がマイナスならば即時に「前年より生活が厳しくなった」と断じることはできない。プラスでもまた同様に「前年より生活が楽になった」と即断するのは早計である。

今回取り上げた「所定内給与額」はボーナスなどと比べ、景気や企業の業績の影響を受けにくい。労働各法の定めにより、基本給を下げる場合には一定の条件を満たした理由付け、手続きが求められるため、経営側では安易に上げるのを躊躇する傾向がある。「ベースアップ」がなかなか行われず、一時金や賞与で調整される場合が多いのも、これが理由である。

もちろん「賃金(所定内給与額)」の動向だけでなく、人員整理・再構築による正規社員・非正規社員の構成比率の変化や、高額賃金の高齢者の退職・再雇用など、労働者自身の周辺環境の変化も、賃金上昇率とともに考慮をしなければ、雇用される側の総合的な生活安定度を推し量ることはできない。また手取りの上では「超過労働給与額」(時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当)も追加されることを忘れてはならない。

一方で「超過労働給与額」はあくまでも「超過」した労働、例えば時間外、深夜、休日などの出勤に対して支払われる対価であり、通常の労働への対価とは別のもの。通常の労働への対価が下げられたのでは、雇用する側に提供する労働力のコストパフォーマンスが悪化していると見なさねばならず、働き手側からすれば由々しき事態ともいえる。

今後は非正規社員比率においては高齢者の大量退職に伴う再雇用を受け、間違いなく継続して増加することから、少なくともその分の「賃金(所定内給与額)」の減少が見込まれる。その一方でここ数年の労働力調査の結果にもある通り、特に女性において雇用状況の改善が見受けられ、正規社員比率が上昇しており、それに伴い平均賃金も増加を示している。来年以降も引き続き注意深く各方面の動向を見守りたいところだ。


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