5.7%は「条件にこだわらないが仕事が無い」…完全失業者の「仕事につけない理由」とは?(最新)

2023/03/07 02:57

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2023-0221仕事ができる状態にあり、仕事をしたくて探しているが見つからずに無職状態にある「完全失業者」の人において、どのような仕事を探しているかについて論議の的となることがある。頭に浮かべている理想の職種での就業を目指しているのか、仕事にありつければ何でもよいのか、職種は選ばないが高賃金が望ましいのかのような、どのような理由で職を見極め、現時点では選択をしていないのか。高望みをしているから職に就けないのだと非難する声がある一方、中長期にわたり生活を支え時間を費やす仕事であるからこそ、自分の望みは極力充足させるべきであるとの声も多い。そこで今回は完全失業者における、仕事に就けない理由に関して、総務省統計局が2023年2月14日に発表した、2022年分となる労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に、探りを入れていくことにする(【労働力調査(詳細集計)年平均(速報)結果発表ページ】)。

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一番多いのは「希望する種類・内容の仕事が無い」


まず「完全失業率」という言葉について。これは「完全失業者÷労働力人口×100(%)」で算出される値だが、この「完全失業者」(※)とは単なる失業者ではなく、「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「(調査週間中に)仕事を探す活動をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)」のすべてに当てはまる人のみがカウントされる。例えば失職しているが怪我のためにすぐには働けない人、怪我も無くすぐに働けるが退職直後なのでしばらく休みたいから仕事は探していない人などは、この「完全失業者」には該当しない。

2022年における完全失業者数は179万人(前年比マイナス16万人)との結果が出ている。そのうちある程度の理由(=なぜ仕事につけないのか)が明確化しているものについて、まとめた結果が次のグラフ。もっとも多い理由は「希望する種類・内容の仕事が無い」とするもので、人数では54万人が該当している。

↑ 仕事につけない理由別完全失業者数(万人)
↑ 仕事につけない理由別完全失業者数(万人)

2022年分のグラフ上の人数の合計が179万人に達しないのは、「その他の理由」があるため(公開データは整数値までの表記なので、端数処理の問題もある)。また、経年人数推移グラフは略するが、「賃金・給与が希望と合わない」の回答者数は2003年以降ほぼ横ばいを続け、2012年以降はほぼ減少傾向にある一方で、「希望する種類・内容の仕事が無い」「求人の年齢と自分の年齢が合わない」「条件にこだわらないが仕事が無い」の回答人数が2008年から2010年にかけて急増していた(特に「条件にこだわらないが仕事が無い」は倍に増加している)。「リーマンショック」で労働市場が急激に悪化し、就業がかなわない人が増えた結果と見るのが道理は通る。

前回年2021年から今回年2022年の動きを確認すると、グラフ上に表した主要項目においては「勤務時間・休日などが希望と合わない」「賃金・給料が希望と合わない」以外は減少している。2020年以降において新型コロナウイルス流行で人とお金の流れが停滞し、景況感が悪化したことで雇用市場も大きな悪化を見せていたが、ようやくその動きも止まり、回復の雰囲気が見えてきたようだ。

もっとも、最低限の求人があれば充足される「条件にこだわらないが仕事が無い」の値に変化がないということは、最低限の求人ですら見つからないケースに変化がないことを意味する。一方でそれなりに条件が限定される「希望する種類・内容の仕事が無い」では大きな減少を示しており、雇用市場での需給におけるマッチングが少しずつ改善しているように見えるのも事実ではある。

年齢階層で大きく異なる失業者の声


これを年齢階層別の割合で見ると、年齢階層ごとの失業事情を把握できる。

↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2022年)
↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2022年)

↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(前年比、ppt)(2022年)
↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(前年比、ppt)(2022年)

・若年層ほど技術・技能不足が多い傾向がある。

・家族を抱えている人が多いこともあり、中年層を中心に現役層は「勤務時間・休日」などの条件がクリアできず、仕事が見つからない。

・どの年齢階層も「条件にこだわらないが仕事が無い」割合は数%ほど存在する。65歳以上では1割を超えている。

・若年層ほど「希望する種類・内容の仕事が無い」が多い傾向がある(A)。

・高齢層ほど「求人の年齢と自分の年齢が合わない」が多い傾向がある(B)。

・15-34歳では「求人の年齢と自分の年齢が合わない」の回答が無い。

(A)と(B)の2項目は2009年以降継続中の傾向として確認できる。まず(A)だが、「仕事における需要と供給のミスマッチ」が多分に作用していると見て間違いない。さらに「技術・技能」が不足しているからこそ、希望職種・内容が限定されてしまうパターンも少なからず存在すると考えると(例えば自動車免許が無ければタクシーのドライバーは不可能)、単純な「ミスマッチ」以外に「経験・技能不足による選択肢の少なさ」が就職活動の上で足を引っ張っている場合も想定される。就職活動において経験や技能は求職者の選択肢を増やす、重要な武器に違いがないことが改めて分かる。

(B)は「年齢のミスマッチ」が問題。本人はやる気(や技術、経験)を持っているものの、越えられない壁の「年齢」が立ちはだかり、職につくことができない状態。「一般職における再就職は30代まで」との話もあるが、40代が含まれる「35-44歳」の層から「求人の年齢と自分の年齢が合わない」比率が確認できるのも合点がいく(ただし厚生労働省側では【募集・採用における年齢制限の禁止について】にもある通り、事業主に対して労働者の募集および採用について年齢制限の原則禁止を義務付けている)。



先行記事に示した通り、2022年においては2020年から2021年にかけて続いていた新型コロナウイルス流行の影響による完全失業者数および完全失業率の悪化から転じる形で、完全失業者数・完全失業率ともに改善の値を示している。一方、失業理由は相変わらず年齢階層によって大きな違いを見せているが、個々の年齢階層における問題点の明確化ができれば、その「問題点」の解決方法を模索し、手を打つことで、各年齢階層の雇用問題がさらに改善できる可能性は高い。無論数か月単位の話ではなく、数年レベルの施策が求められる。特に「労使間の条件のミスマッチ」は情報の集約と容易な検索ができる環境の整備、「経験・技能不足」はそれらを習得させることで(本来これは学生時代にある程度成していなければならないのだが)、小さからぬ進展が期待できる。

他方、労働市場そのものが大きくならないことには、限られた受け皿の中でやりくりするのにも限界がある。そのためにも景気の回復と新たな雇用市場(=産業)の創生もまた、完全失業者を減らす施策として高い優先順位で求められよう。


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※完全失業者
2018年分の労働力調査から、「完全失業者」に加え「失業者」の概念が追加された。

・失業者
次の3つの条件を満たす者
【1】仕事が無く調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない)。
【2】仕事があればすぐ就くことができる。
【3】調査週間を含む1か月間に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)。

・完全失業者
次の3つの条件を満たす者
【1】仕事が無く調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない)。
【2】仕事があればすぐ就くことができる。
【3】調査週間中に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)。

完全失業者は2017年分までと同じ定義で、失業者は仕事を探す活動や事業を始める準備の期間が異なるのみ。報告書では失業者が多く用いられるようになっている。今回の完全失業者における仕事につけない理由については、報告書では失業者の動向に差し替えられる形となったため、データベースから直接完全失業者の回答を抽出し、独自算出している。

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