「ウルトラジャンプ」は「ジョジョリオン」効果再び…少年・男性向けコミック誌部数動向(2012年10月-12月)

2013/02/25 07:55

【社団法人日本雑誌協会】は2013年2月19日、2012年10月から12月分の印刷部数を公表した。主要定期発刊誌の販売数を「印刷証明付き部数」ベースで公開したデータで、業界の動向・実情を示すものとしては、各紙・各出版社が発表している「公称」部数より精度が高く、検証素材としても有益なものである。今回は当サイトの読者層を考慮し、「少年・男性向けコミック誌」のデータをグラフ化し、前回発表分データからの推移を眺めることにする。

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データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など用語の説明は一連の記事まとめ記事【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明されている。そちらで確認をしてほしい。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」がトップにあることに違いはない。

2012年7-9月期と最新データ(2012年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2012年7-9月期と最新データ(2012年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

「ジャンプ」は直近データで282万7693部。販売実数はこれよりも少なくなるので、前回と同じく250万部前後と考えられる。いずれにしても雑誌不況の中、驚異的な値であることに違いは無く、王者ジャンプの威厳は実績のもとに今なお維持されている。そして部数そのものもこの数年大きな変化はなく、これもまた評価すべき結果ではある。もっとも、最盛期である1995年時点の635万部と比べれば半分以下であることも、また事実。

今回は前回に引き続き、計測対象の中で休刊などの理由から「退場」した雑誌は無い。また、新規参入組も無し。

続いて男性向けコミック誌。こちらも世間一般のイメージ通りの印刷部数展開。

2012年7-9月期と最新データ(2012年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2012年7-9月期と最新データ(2012年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

「ビックコミックオリジナル」「ヤングマガジン」「週刊ヤングジャンプ」の三強状態は継続中。順位にも変動なし。後者二つにやや大きな部数の動きがあるが、まだ余裕はある。

以前【隔週刊誌「ビジネスジャンプ」「スーパージャンプ」の統合月2回刊誌、「グランドジャンプ(GRAND JUMP)」に決定】で以前お伝えしたように、「ビジネスジャンプ」「スーパージャンプ」両誌は休刊となったため、長年印刷部数関連の記事で継続掲載していた両誌は、データ掲載誌としては除外されている。代わりに両誌の再構築誌的な立ち位置で登場した雑誌「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」のうち、今回も前者のみが顔を見せている。「-プレミアム」は月刊誌だが、非公開の方針は継続。統合・再分割のパターンは比較的稀有なため、その後の両誌の動向は参考になることもあり、強く公開が望まれる。

その「グランドジャンプ」の今期印刷数は21.5万部。「ビジネスジャンプ」の最後期データ23.9万部を下回る状況。統廃合による上乗せ効果の期待には、すでに応えられない数字が出ている。

前期・前年同期比の比較をしてみよう
さて、これで最新期とその前の期の印刷部数を棒グラフ化できたわけだが、続いてこのデータを元に各誌の(前・今期間の)販売数変移を計算し、こちらもグラフ化を試みることにする。季節変動「など」を無視することになるが、短期間の変移ではむしろこちらのデータの方が重要。

今件は約3か月間にどれだけ印刷部数(≒販売部数)の変化があったかの割合を示すもの。当然ながら、今回データが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌はこのグラフには登場しない……が、新規参入・脱落雑誌は無いため、それに該当するものは無い。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年10-12月期、前期比)

まず目に留まるのは「少年サンデースーパー」の下落ぶり。前四半期で「マギ」のアニメ化直前による勢いで大きく値を底上げした反動が出ている。一方で2四半期前と比べても部数は落ちており、単なる反動以外の後退が懸念される。

一方「別冊コロコロコミックスペシャル」は大いに値を上げている。これは前四半期(マイナス14.3%)の反動、各種付録カードへの注目、そして「とびだせ どうぶつの森」の漫画連載開始などが影響しているようだ。また「ウルトラジャンプ」も良い伸び率だが、これはひとえに連載中の「ジョジョリオン ジョジョの奇妙な冒険Part8」が牽引力と考えて良い。特に2012年10月6日から11月4日まで東京で行われた「ジョジョ展」との相乗効果は絶大だったようだ。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2012年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2012年10-12月期、前期比)

今回はプラス誌が1誌のみ、マイナス値を示す雑誌がほとんど。下げ幅も大きく、少年向け雑誌よりも状況は思わしくない。前四半期で大きなマイナスを出した雑誌(例えば「スーパーダッシュ&ゴー!」は前四半期ではマイナス16.7%だった)の反動すら見られない。

かねてから堅調ぶりを見せている「コミック乱三兄弟」こと「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」「コミック乱」「コミック乱ツインズ」だが、今四半期では不調の動きを見せている。特に「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」の下げ幅が大きい。もっとも前2四半期まで大きく数字を伸ばしていたため、その反動と見ることもできる。

一方唯一覇気を見せる「ガンダムエース」だが、これは多分に付録、特に2013年1月号に添付された「Zガンダムヘッドディスプレイベース」によるところが大きい。ガンプラ(ガンダムのプラモデル)ファン必見のアイテムだっただけに、数千部の上乗せは当然といえる。

さて一連の定点観測を続けているおかげで、過去のデータを用いて「前年同期比」のデータを算出できるようになった。今回もいわゆる「季節属性」を考慮しなくても済む「前年同期比」のグラフも掲載する(例えば今回なら、2012年10-12月と、その1年前の2011年10-12月分の比較というわけだ)。純粋な雑誌の販売数における、年ベースでの伸縮率が把握できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年10-12月期、前年同期比)

上記で解説した「少年サンデースーパー」は、前年同期比では大きく伸びている。これは同誌が2012年1月売りの3月号からリニューアル・新装刊を果たしたことに伴い、部数を大きく底上げしており、その影響が残っているもの。次四半期ではこのような大きなぶれは無くなるはず。また「ゲッサン」は前四半期で大きな影響が出た、あだち充先生の作品「MIX」効果が続いているようだ。一方伸び率こそケタ違いだが、「ウルトラジャンプ」のプラスは間違いなく「ジョジョ」効果。

「少年サンデースーパー」の100%超のプラスに半ば隠れてしまったが、他の各誌は押し並べて軟調。マイナス10%超が4誌という値は「見て見ぬふり」ができる状況ではない。該当4誌のうち3誌は前年同期比でマイナス10%を何度となく計上しており、そろそろ「少年サンデースーパー」のリニューアルのような、何らかの活性化策を打ち出さねばならない状況下にあることは否めない。他方「最強ジャンプ」は今回初めて前年同期比グラフに顔を出したわけだが、初っ端から苦い成績を出してしまっており、今後の奮戦に期待したいところ。

また週中発売の二大週刊誌「週刊少年マガジン」「週刊少年サンデー」だが、今期では前者がマイナス4.6%、後者がマイナス8.0%と、双方ともあまり好ましくない値を示している。部数そのものはそれぞれ140.5万部・52.0万部と、他誌と比べればまだまだ大きな数字ではあるが、それゆえに「減少比率」でこの値を示していることには注意を払う必要がある。また、これまで何度となく繰り返しているが、「週刊少年マガジン」との差異が3倍近くにまで開いている「週刊少年サンデー」は、早急な対策が求められている。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2012年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2012年10-12月期、前年同期比)

前四半期では軟調を記した「コミック乱三兄弟」だが、前年同期比では下落基調に陥らずに踏みとどまっていることが分かる。これを見るに、前四半期との比較で不調に見えたのは、単に前2四半期が堅調だったための反動でしかない可能性が高い。

他の雑誌は押し並べてマイナス。前年同期比で5%超のマイナスを記録している雑誌(赤で棒グラフを着色)が13誌とはあまりにも多すぎる。男性向けコミック誌の現状を顕著に語る結果が出てしまっているとしか表現のしようがない。各誌とも多様なてこ入れ、創意工夫を凝らしているはずではあるが、数字を見る限りでは(部数底上げを期待しての努力であるならば、)空回りが多いように見受けられる。



今四半期データは通常の出版業界動向を反映したもので、震災などの特異状況による変動は受けていない。多くの雑誌でマイナス値を計上している状況からは、全体として売上の減少傾向、業界縮小の動きが継続している事実が再確認される。

特に「季節変動を無視できる、前年同期比で印刷部数がマイナス10%超え」を繰り返す雑誌が複数存在している状況は、雑誌そのものの休刊・デジタル化への移行、複数誌による再編、そして「少年サンデースーパー」のようなダイナミックなリニューアルを起こさねばならない状況を示唆している。いわゆる「小手先の修正」では対応しきれない現実がここにある。

【1か月の購入金額は143円!? 週刊誌や雑誌、書籍の支出額をグラフ化してみる(2011年12月版)】【週刊誌や雑誌、書籍の支出額をグラフ化してみる(拡大版)…購入世帯率や購入頻度の移り変わり(2011年・完全版)】などで触れている通り、総務省統計局のデータによれば、雑誌・週刊誌では書籍同様に「購入する人がいる世帯の減少」「購入者の購入冊数の減少」と多元的に雑誌離れが起きている。言い換えれば「家族誰一人として雑誌を買わなくなった」「買っている人も買う冊数を減らしている」事態が進行している。雑誌販売の一番の窓口といえるコンビニでも【コンビニの出版物販売額をグラフ化してみる(後編:全体編)(2012年「出版物販売額の実態」版)】で示した通り、出版物販売額は減少のさなかにあり、「雑誌離れ」が進んでいる。さらに先日【少年・青年雑誌の無いコンビニ雑誌コーナー】でもお伝えしたように、雑誌・書籍販売コーナーから少年・青年雑誌を取り除くコンビニも確認される状況にある。

もちろん堅調さを続けている一部雑誌のように、適切な読者からの「声」をとらえることで、少年・男性向けコミック誌にもまだまだ復権の芽は残されている。読者の声に応える作品を展開すれば、素直に部数は増える事例もある。また、読者を引き付ける、新規購入者を引っ張ってこれる魅力的な作品を有することができれば、雑誌そのものの購入者増加も期待できる(今回では「ウルトラジャンプ」などが好例)。

さらに紙媒体では無いため今データには直接は反映されなくなるが、デジタルメディアへの積極的なアプローチ、そしてデジタルとアナログ(リアル、紙媒体)との相乗効果を狙った企画の展開、電子出版による「雑誌」の展開も検証課題として挙げられる。

【Jコミ】のような過去の需要の掘り起こしで具体的・数字的な実績を次々と挙げ、新作への需要との連鎖反応を生じさせるサービスの堅調さも注目に値する。昨今では新たなスタイル「JコミFANディング」で読者が作家を直接後押しする仕組みも提案し、各スマートフォンへの対応も果たし、先日には【稀代の名作「3年奇面組」】などの掲載で一時的にサーバーが過負荷状態に陥るまでのアクセスを記録するなど、国内電子書籍市場の風雲児としての立ち位置を確かなものとしている。また【「カード型電子書籍実証実験:カードヨム(Cardoyom)」の話】でも紹介したが、カードスタイルで電子書籍の新たな接点創生を模索する【カードヨム(Cardoyom)】の実証実験など、新時代を予見させる動きは各所で見受けられる。

携帯情報端末の浸透が、一般携帯電話からスマートフォン、そしてさらにはタブレット機などにも移行することで、雑誌の立ち位置はますます不安定・不確定なものとなっていく。紙媒体としての雑誌のスタイルを維持するにせよ、他メディアとの連動性を高めるにせよ、雑誌出版の当事者には大胆なかじ取りが求められている。海外ではすでに電子書籍リーダーなどを介したデジタルメディアでの書籍を読み説くことも、一般の紙媒体経由によるもの同様「読書」として取り扱う流れが主流となっているという現状に、目をそむけてはならない。

紙には紙の、デジタルメディアにはデジタルメディアの利点があり、その利点が何であるのかを正しく認めた上で、一歩前に進む時はすでに来ている。今現在は嵐の中に突入してしまっている感は強いが、それでもまだ適切なかじ取りをすることで、嵐を抜け出すチャンスは残されている。もちろん、残された時間は長くは無い。

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