国毎に異なる「自分の体が衰えた時に住みたい家」とは(高齢社会白書)(最新)

2021/11/08 03:13

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2021-1025内閣府が2021年6月11日付で公開した最新版(2021年版)の「高齢社会白書」では、高齢化を迎えた日本社会が抱える問題点を、主に公的機関の調査結果を基にまとめ上げ、それとともに各種施策について解説を加えている。今回はその中の掲載値や一次資料の値を基に、「高齢者が『自分の体が弱った時に』どのようなタイプの住宅に住みたいか」について、確認をしていく(【高齢社会白書一覧ページ】)。

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昨今では【退職金を消費に使うとしたら…? トップは旅行、次いでリフォーム】などで解説しているように、世帯主に限らず世帯内の高齢者が高齢化する際に自宅内のリフォームを行い、廊下や階段での歩行など日常生活でトラブルを防ぐ仕組みを備える、高齢者に優しい「バリアフリー化」が流行、むしろ必要不可欠な需要として注目を集めている。バリアフリーが無い住宅では、高齢者には「毎日がアスレチックス」と表現できる、冗談にならない環境ともいえるものとなる。




↑ 創建のバリアフリーに関するプロモーション映像

バリアフリー化が容易な自前の持家と、勝手に施工を行うことが難しい賃貸住宅では、やはり前者の方が高齢者の満足度が高い。無論「自分で購入した住宅だからある程度自由の効く大きさ、デザイン、間取りをしているから」などの事情も大きな要因だが、高齢者となった上での回答ならば、バリアフリー問題が多分に含まれていると考えてよい。

↑ 現在の住宅に関する満足度(60歳以上)(2015年)
↑ 現在の住宅に関する満足度(60歳以上)(2015年)

しかしながら日本に限れば実際には、世帯全体と比べれば高めではあるものの、高齢者がいる世帯でも持家率は5割から9割程度。残りは公営・民間・給与住宅など多様ではあるが、借家であり、自らの事情に応じてバリアフリー化をするのは難しいのが実情(予算面の問題が多分にあるのが実情だが)。特に単身高齢者世帯の持家率が低めなのが気になるところ。

↑ 住居の状況(60歳以上、持家率)(2018年)
↑ 住居の状況(60歳以上、持家率)(2018年)

「既婚(配偶者と離別)」の持家率が低いのは、離別した元配偶者側が持家に住み続けているからだと考えられる。「既婚(配偶者と死別)」で高いのは、残った既婚者が持家に住み続けるから。

それでは高齢者自身は、自分が虚弱化(肉体的に衰えを覚えるようになった)した時、どのような居住形態の住宅に住むのを望むだろうか。こちらも原則60歳以上へ回答を求めており、年齢的には切羽詰まった、あるいは現在進行形で移行しつつある状況への切実な需要を答えてもらったことになる。

今件では日本は5年おきに2000年・2005年・2010年・2015年・2020年、そしてアメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンは2020年、韓国は2010年に尋ねた結果を確認できる。

↑ 自分が虚弱化した時に望む居住形態(60歳以上)
↑ 自分が虚弱化した時に望む居住形態(60歳以上)

日本では2000年時点で「改装の上、自宅にとどまりたい」の回答項目が存在しなかったらしく回答率がゼロだが、2005年以降は項目が用意され、「現在のまま、自宅にとどまりたい」を侵食する形で広がりを見せているのが分かる。いずれにせよ、改装の有無を別にすれば今の自宅にとどまりたい率は6割から7割程度。一方で「老人ホームへの入居」もおおよそだが経年による増加が確認できる。その分「病院に入院したい」がおおよそ減っているが、これは患者の増加に伴い過密状態にあり、病症によっては早期退院を迫られる、いわゆる「介護入院」を避ける病院の現状を鑑みた回答による結果だと考えられる。また「高齢者用住宅へ引っ越したい」との回答が増えているのも注目に値する。

海外では概して「自宅にとどまりたい」率が高く、アメリカ合衆国とドイツでは(改装を合わせて)7割強の値を示している。スウェーデンもほぼ7割。またスウェーデンでは「改装の上、自宅にとどまりたい」の値が非常に高いのが印象的。ドイツとスウェーデンでは「高齢者用住宅へ引っ越したい」との意見も多い。それぞれの国の高齢者への社会の取り組み方や住宅事情が反映されているのだろう。

他方、日本国内に限るが、回答者の年齢階層別に区分し直すと、興味深い動きも確認できる。

↑ 自分が虚弱化した時に望む居住形態(60歳以上、日本限定、年齢階層別)(2020年)
↑ 自分が虚弱化した時に望む居住形態(60歳以上、日本限定、年齢階層別)(2020年)

年上になるに従い、改装せずにそのまま自宅にとどまりたいとの回答が増え、その分改装した上で自宅にとどまりたいと人は減っていく。これは年上になるに連れて、回答した時点ですでに自宅が適切に高齢者向けに改装され、現状で十分対応されている人が増えていることを意味する。年上になっても「現状」「改装の上」の合計にさほど変化が無いのがその裏付けとなる。

他方、年が上になるに連れ老人ホームへの引越しや病院への入院を望む人も増えてくる。これは身体の衰えが進み、改装しても通常の住宅では生活に難儀すること、常時サポートする人がいる環境が望ましい人が増えていることを想像させる。



体が弱った後、どのような住環境で生活するのが望ましいか、そして本人が希望するかは、個々の事情や信念、環境以外に、国毎の社会制度や医療保障の仕組み、習慣などの条件により、大きく回答が変わりうる。かつて白書内ではどのスタイルがよいか否かなどの言及は無く、単に差異が生じていることのみを伝えていた。

今グラフも同様に、国毎、そして日本国内での経年変化を見て風習などの違いを認識するのが目的であり、良し悪しを吟味するものでは無い。「今後ますます日本ではバリアフリーへのリフォーム需要が高まりそうだ」的な見方を行い、高齢社会化に伴う社会現象の一つと認識してほしいものである。


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