出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(15年経緯)(2016年)(最新)

2016/11/03 05:30

先に【出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(前年比)】で、日販の『出版物販売額の実態』最新版(2016年版)のデータを基に出版物の主要種類別における売上の直近動向を確認した。一部では堅調さも見られるものの、軟調な種類も多い販売動向ではあったが、それではこの流れは単年のみのものなのだろうか。それとも以前から同じような動きを示していたのだろうか。過去のデータを紐解き、その疑問を解消していくことにする。

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まずは書店における出版物の売上高では額面上大きな売上を占める3大分類「雑誌」「コミック」「文庫」(この3区分で売上全体の約2/3に達する)、それに加えて「新書」の計4区分を抽出した、過去15年分における売上高前年比の推移を折れ線グラフにしたのが次の図。

↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)
↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)

金融危機が経済の足を引っ張る2007年までは「雑誌」の低迷感はともかく、「コミック」「文庫」「新書」はそれなりに良い値を計上していた。ところが2007年以降は押しなべてマイナス圏を推移。「コミック」はヒット作による底上げがあるため時折大きな上昇機運にけん引されることもあるが、それでも全体的なマイナス感は否めない。また「雑誌」はマイナスを継続しているとの意味で安定している。

もっとも2007年は金融危機の勃発年ではあるが、同時にこの前後からインターネットの普及浸透や携帯電話の利用が広まりを見せていたため、経済全体よりもむしろメディアの多様化によるものの影響の方が大きいかもしれない。スマートフォンが本格的に普及し始める2011年から2012年以降、特に「雑誌」の下げ幅が大きくなっているのも、その表れと見れば納得はできる。

直近となる2015年では、対象分類すべてが前年比でマイナス。「コミック」は前年でプラスを計上しており、その反動もいくぶんはあるが、それだけでは説明ができない下げ方に違いは無い。

続いて「児童書」「学参(学習参考書)」「辞典」「実用書」「地図旅行」。ややこしい話になるのだが、「学参」と「辞典」、「実用書」と「地図旅行」はそれぞれ2004年までは同一区分でカウントされていたため、それぞれは2004年までまったく同じ値となっている。そして2005年から2009年は分離、2010年では再びそれぞれが合算して1項目に戻ったため、再び同じ値を示している。これら「2004年まで同じ」「2010年で同じ」区分内の項目は、同じ種類のマークを名前の後ろにつけて、把握できるようにしている。

↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)
↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)

2008年に「辞典」が大きく売れ行きを伸ばした理由は過去の記事で補足したように、10年ぶりに改訂された「広辞苑」の発売(第六版)と、【2008年辞典売上活性化の謎】で解説した「辞書引き学習」のブームによるもの。そのイレギュラーを除けば、2007年の不況以降は押し並べて軟調。ただしここ数年は該当部門はいずれも復調の兆しを見せ、直近2015年に限れば「児童書」「学参・辞典」が前年比でプラスを計上している。先行記事で言及している通り、子供向けの出版物は他の分類と比べ、活気を示しているように見える。

最後に「文芸」「ビジネス」「専門」「その他」。このうち「ビジネス」「専門」については、やはり2004年まで同一項目でカウントされている(こちらは2010年の項目再統合は無し)。また「その他」は2010年では「総記」と項目名を変更している。

↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)
↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)

「その他>総記」とは日記、手帳、文具や図書券、セルビデオ、レジ回り商品文具などを指す。2010年にこの分類が大きな伸びを示したのは、【短所を長所に...電子たばこ付きの「本」、ミリオンセラーに】で紹介した電子たばこが多分に影響しているものと考えられる。「文芸」の上下の振れ幅の大きさが目に留まるが、これは「コミック」同様に、この分類がヒット作の状況次第で大きく左右されるのが原因。中期レベルでの傾向は特定できない。ただこの数年は押し並べてマイナス圏にあり、それだけコンスタントに売り上げが落ちていることに違いは無い。2013年では村上春樹氏の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の登場で大きく盛り上がったが、その分反動が直近年の2014年に現れた形となった。少なくともデータを計上できる2001年以降では最大の下げ幅を示している。直近の2015年は再びプラスを計上しているが、これは先の記事で触れている通り、前年の反動以上のものでは無い。

また今グラフは「ビジネス」「専門」の安定的なまでの減退ぶりが良くわかるものとなっている。「専門」は直近となる2015年を除くグラフの領域全期間で、「ビジネス」は2006年以降継続して前年比マイナス圏にある。読むに値する該当分類誌が減ったのか、インターネットなどのデジタルメディアに移行したのか、原因は複数考えられるが、今回の結果からだけでは断定は難しい。もっとも、例えば金融系ビジネス誌の休刊がちらほら見受けられる状況と、その理由を推定する限りでは、「購入価値がある対象誌の減少」「デジタルメディアへの移行」の双方が相乗効果的に影響を及ぼしていると考えれば道理は通る。



以上駆け足ではあるが、主要分類別に出版物の売上推移のチェックを行った。2015年は子供向け、あるいはそれに類する分類でプラスを計上しており、出版業界の明暗が分かれた形となった。もっとも上記の通り出版物売上全体に占める割合は「雑誌」「コミック」「文庫」だけで2/3ほどを占めており、これらが総じて軟調である以上、全体としても難しい状態にあることは言うまでもない。

一歩引いて出版物市場全体を見渡すと、消費者の可処分所得の減退、消費性向の変化、娯楽の多様化、他メディアとの時間・費用の奪い合い、そして「読書」の観点に限っても電子書籍の登場と広まりなど、出版物の周囲には売上の減少を導きうる要素が多分に確認できる。しかしこれらの動きは一、二年突然で降ってわいたものではなく、それよりももっと前から生じていたもので、「変化」はそれが加速化したに過ぎない面も大きい。そして似たような「変化」はこれまでにも何度となく発生している。

注意したいのは、「これまでにも」の事例も合わせ今回の「変化期」においても、単なる縮小とは異なる「スタイルの変貌」「進化」の様相を合わせ持っていること。他メディアとの積極的な連携、電子書籍など多様な方向性への展開に代表される、新たな富肥市場をつかむ選択肢・可能性も用意されている。

昨今の「出版不況」は業界が進化を遂げるために課せられた、艱難辛苦、試練とする解釈も可能だろう、いやそうに違いない。


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※各グラフで最新年度以外の数字が表記されていませんが、これは資料提供側の指示によるものです。何卒ご理解ください
(C)日販 営業推進室 書店サポートチーム「出版物販売額の実態 2016」

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