書店8157億円、インターネット2872億円…出版物の売り場毎の販売額推移(最新)

2023/12/06 05:36

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2023-1206かつては出版物を購入する場所といえば本屋がメインで、あとは出勤時に駅の売店で買うぐらいのものだった。しかし現在ではコンビニやインターネット通販など、多様なルートを通じて入手することができる。さらに昨今では新興勢力のインターネットに押される形で、書店の統廃合や大型化が進んでいる状況。今回はその動向を販売額から確認すべく、日販の「出版物販売額の実態」最新版(2023年版)を基に、その実情を精査していくことにする。

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インターネット以外はおおよそ減少続く…直近の流れをチェック


まずは出版物(あくまでも出版されたもの。つまり紙媒体)の流れ・流通の仕組みだが、概念的には次の通り。

↑ 出版流通の仕組み(取引形態)
↑ 出版流通の仕組み(取引形態)

これは今世紀初頭に経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課が「コンテンツ産業政策」の一環としてまとめた【出版産業の現状と課題(PDF)】に掲載されていたもの。現在では数字部分は大きく変動しているが、基本的な流れに変わりはない。今回グラフ化するのは、この「書店」の部分、つまり「取次」と「消費者」の間に挟まっている、小売の「書店」部分の動向。

昨今では電子書籍の流通も進んでいるが、電子書籍でも少なからずは取次を経由しており、一般書籍とさほど変化は見られない(取次を利用した方が、紙媒体の販売時に取次に任せていた作業を自前でやらずに済む。つまり手間が増えない)。直近年度分となる2022年度では電子出版物の市場は6670億円で、これはインターネット経由の出版物の通販(インターネット専業店を経由して販売された推定出版物販売額。アマゾン経由なども含む)を超え、当然コンビニ経由をも超える額となっている。しかしながら今記事はあくまでも「出版物」を対象としているため、数字には反映していないが、後ほど別の記事で反映した考察を行う。

なお「その他取次経由ルート」とは生協ルート、駅販売ルート、スーパーやドラッグストアなどに設置されているスタンドルートの合算。昨今では駅売店の一部が大手コンビニチェーン店によってコンビニ化されているが、これはコンビニの値として計算されている。

また「出版社直販」との項目があるが、これは出版社が取次を通さずに直接販売店や読者に出版物を販売するルートを指す。具体的な例としては個人読者以外に学校や研究施設、教育機関、企業などが相当する。グラフ記載の際には、通常の販売ルートとは多少色合いが異なるため、項目順としては最後に並べている。また、2018年度分・2019年度分でそれぞれ前年度から集計方法が変更されているため、2017年度分までの値と2018年度分、そして2019年度分との間には厳密な連続性は無い。

それでは早速、主要販売ルート別の推定出版物販売額を直近5年間の動きで見ていく。元データはもっと細かい部分まで出ているが、億円以下は四捨五入で掲載。書店ルートがトップなのは当然だが、インターネットが現時点では第2位のポジションについているのが分かる。

↑ 販売ルート別出版物販売額(億円)(2018-2022年度)
↑ 販売ルート別出版物販売額(億円)(2018-2022年度)

↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比)(2018-2022年度)
↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比)(2018-2022年度)

直近年においては、かつて【「駅の売店では新聞・雑誌が売れないらしい」を確かめてみる】で挙げた駅売店を含む「その他取次経由」は、金額ベースでは350億円。インターネットルート(アマゾンジャパンや楽天ブックスなども、把握できる範囲で含む)は2872億円、構成比は20.5%。インターネット経由の出版物販売は著しい成長率を見せ、出版物販売全体に対するシェアを拡大しつつある。立ち位置としては広告業界における既存媒体広告(いわゆる「従来型広告媒体」「4マス」)と、インターネット広告のような関係と表現できるだろう。また、この5年間に限れば、インターネット以外の主要ルートのほとんどすべてで販売額が漸減している実情がうかがえる。グラフの領域には無いが、2017年度においてコンビニとインターネットとの順位が入れ替わっており、その序列は継続中である。

より長期の動向を確認する


より長い期間での推移を見るため、今資料にデータとして収録されている過去の分を用い、すべてのデータと直近10年度分について、積み上げグラフと全体比グラフにしたものを作成する。長期データは1973年度以降の値が取得可能だが、過去3回算出方法の変更が行われているため、変更開始年度には「*」をつけている。その前後の値に完全な連続性は無い。

また上記で言及の通り、今件では電子書籍は含まれていない。さらに2006年度まではインターネット経由の数字は「その他」項目に区分されていたが、2007年度以降は別個の項目として新設されている。出版社直販は2006年度分から新たにデータ上に反映されている(そのため販売総額が大きく底上げされている)。

↑ 販売ルート別出版物販売額(億円)
↑ 販売ルート別出版物販売額(億円)

↑ 販売ルート別出版物販売額(*はその年度から算出方法変更、億円)(1973年度以降)
↑ 販売ルート別出版物販売額(*はその年度から算出方法変更、億円)(1973年度以降)

↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比)
↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比)

↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比、*はその年度から算出方法変更)(1973年度以降)
↑ 販売ルート別出版物販売額(構成比、*はその年度から算出方法変更)(1973度以降)

算出方法の変更が行われた年度の前後で大きな変化が生じているが、それを除けば1996年度をピーク(出版社直販を加えれば2006年度をピーク)とし、それ以降はほぼ右肩下がりの販売額状況にあることがあらためて確認できる。特に算出方法を最後に変更した2006年度以降は一度も盛り返しを見せることなく、額は落ち込む一方。もっとも直近4年間は他の販売ルートでの販売額が漸減する一方、インターネットが大きく伸びているため、全体はほぼ横ばいの動きとなっている(直近2022年度ではいくぶん減少したが)。

【雑誌2536点・書籍6万9052点、いずれも漸減中…戦後の雑誌と書籍の発行点数(「出版年鑑」など編)(最新)】にもある通り、戦後直後の出版ブーム期を除けば、雑誌点数は2005年前後、新刊の書籍点数は2013年をピークにようやく減少を見せ始めたが、それまでは増加の一途にあった。しかしながら販売総額はすでに前世紀末にピークを迎えていたことになる。

また【雑誌の平均返本率は4割】などにもある通り、返本率は書籍などで3割程度、雑誌に至っては4割前後に達している。このことから、読者側の趣向の多様化により、雑誌や書籍の販売点数は増えても1種類あたりの発行部数が減っていると見るのが推論としては正しいようだ。よく言えば趣向の多様化に対応した戦略、うがった見方をすれば「数撃ちゃ当たる」「ノリと勢いで新刊を出し、ロングセラー的な売り方にはあまり注力しない」的な表現が当てはまる。さらにヒットする・しないで作品の販売動向が二極化する傾向も見受けられる。

他方、書店数は減少する一途をたどっているが、それにもかかわらず、書店の販売比率(全出版物販売額比)は大きな減り方を示していない。ここ10年では数%ポイント、もっとも古い値の1973年度との比較でも(算出方法が変わっているが)20%ポイント強の減少でしかない。これは販売「額」を見ればお分かりの通りで、書店の販売「額」そのものは減少しているものの、それ以上に他の区分、とりわけコンビニや駅売店を含めた「その他取次経由」の販売額が減少しているのが要因。

一言で表現すれば「書店以上に他の小売で出版物の売上が減り、相対的に書店における販売額構成比はそれほど大きくは減っていない」ことになる。書店の相次ぐ閉店、そして連動する形で販売機会の減少が声高に叫ばれているが、「リアルな購入機会の減少」事案は、それ以外の場所でもっと深刻化している次第。出版社直販でも同様の動きが生じているが、こちらは2018年度と2019年度それぞれで集計方法を変更したためにその影響が生じている可能性がある。



余談になるが、販売額の前年比を折れ線グラフにしてみたのが次の図。算出方法が変わっては前年度比の意味が無いので、2007年度以降に限定している。

↑ 販売ルート別出版物販売額(前年度比)
↑ 販売ルート別出版物販売額(前年度比)

書店や出版社直販、その他取次経由は単に減少するだけでなく、減少幅を少しずつ拡大。インターネットはプラス圏を維持の動き。もっとも2020年度からインターネット以外の販売ルートでの下げ幅が縮小する動きが生じている(マイナスなので販売額が減少していることに変わりはないが)。これは新型コロナウイルスの流行で在宅時間が長くなり、読書の機会が増え、結果として出版物への需要が拡大したことによるものだろう。特に2020年度においてインターネットの上げ幅が大きくなったのは、対人接触を極力避けられるからに他ならない。

コンビニは前年度比でマイナス10%内外を維持する状態にあったが(2020年度以降は上記理由により下げ幅は縮小)、その低迷原因に関しては【コンビニでは本が売れなくなってきているようだ】でも一部指摘しているように、

・大きな低迷を見せ始めた2007年度以降はインターネットや携帯電話の本格的普及時期と重なるため、ハードルの低い時間つぶしが「コンビニでの雑誌(特にファッション誌や週刊誌、コミック廉価版など)」からインターネットやモバイル系端末に奪われた結果。

・家計単位での雑誌販売額の減少によるもの。

・コンビニで販売される機会が多い雑誌、ビジネスやマネー誌、HowTo関連など、関連雑誌業界そのものの不調。

・コンビニでしか買えない雑誌の類の減少。

・コンビニで販売されるタイプの雑誌における、付加価値や情報そのものの陳腐化(付録雑誌は増加しているが、縮小再生産の感は否めず)。

・コンビニにおける利用客の消費性向の変化(お弁当などと一緒の「ついで買い」をする余裕がなくなってきた、「ついで買い」の対象が惣菜やコーヒー、ドーナツなどの間食類に移ってきた)。

などが考えられる。また数年前に大きな注目を集め、昨今でも半ば定期的に話題となる、成人向け雑誌のコンビニからの除外も少なからぬ影響を与えているであろうことは、容易に想像できる。

さらに直近年度では前年比マイナス20.4%という、かつてないほどの下げ幅を示してしまっている。コンビニ業界そのものは店舗数が激減したわけではなく、全体の売上が落ち込んだ話もないので、出版物販売額だけが大きく減った形であり、大いに気になるところだ。

一方、詳しくは機会を改めて解説するが、そのコンビニにおける雑誌の集客力が大きく減っていることは、コンビニ業界の月次報告でも言及されている。同じような立場のたばことともに、売り場における肩身が少しずつ狭い状況となりつつあるのは確かな話。直近年度で大きく値を減らしたのは、あるいはこれが一因かもしれない。

ともあれ、書店数の減少そのものは事実だが、それのみが出版業界の低迷に直接起因する第一要因と考えるのは無理がある。むしろ原因と結果が逆で、出版業界の低迷が書店数の減少に影響を与えている、一因である可能性も否定できない。しかしそれよりはむしろ双方とも、他の要因(趣味嗜好の多様化、インターネット・携帯電話の普及による時間消費手段の変化、書店経営者の高齢化、地域商圏の希薄化)により、連動的に縮小を余儀なくされていると考えた方が辻褄は合いそうだ。


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(C)日販 ストアソリューション課「出版物販売額の実態2023」

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