【更新】「ゲッサン」はあだち先生の新連載で大きく飛躍…少年・男性向けコミック誌部数動向(2012年4月-6月)

2012/08/08 12:10

【社団法人日本雑誌協会】は2012年8月6日、2012年4月から6月分の印刷部数を公表した。主要定期発刊誌の販売数を「印刷証明付き部数」ベースで公開したデータで、業界の動向・実情を示すものとしては、各紙・各出版社が発表している「公称」部数より精度が高く、検証素材としても有益なものである。今回は当サイトの読者層を考慮し、もっとも読者が興味をそそるであろう「少年・男性向けコミック誌」のデータをグラフ化し、前回発表分データからの推移を眺めることにする。

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データの取得場所の解説や、「印刷証明付部数」など文中に登場する用語の説明は、一連の記事まとめ記事【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明が行われている。そちらで確認をしてほしい。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」がトップにあることに違いはない。

2012年1-3月期と最新データ(2012年4-6月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2012年1-3月期と最新データ(2012年4-6月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

「ジャンプ」は直近データで283万0000部。販売実数はこれよりも少なくなるので、前回と同じく250万部前後と考えられる。いずれにしても雑誌不況の中、驚異的な値であることに違いは無い。王者ジャンプの威厳は実績のもとに今なお維持されている。もっとも、最盛期である1995年時点の635万部と比べれば半分以下であることも、また事実。

今回は前回に引き続き、計測対象の中で休刊などの理由から「退場」した雑誌は無い。また、新規参入組も今回は無し。前期の際に新規参入分として取り上げた小学館の【コロコロイチバン!】は、詳しくは後述するが、数字の上でかなりの「奮闘」が確認できる。

続いて男性向けコミック誌。こちらも世間一般のイメージ通りの印刷部数展開。

2012年1-3月期と最新データ(2012年4-6月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2012年1-3月期と最新データ(2012年4-6月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

「ビックコミックオリジナル」「ヤングマガジン」「週刊ヤングジャンプ」の三強状態は継続中。また、【コミックバンチ、正式に休刊表明・年内に新創刊】でお伝えしているように、週刊コミックバンチは休刊、枝分かれするようにゼノンとバンチがそれぞれ月刊誌として発売されたものの、今期でも両誌とも今期に至ってもデータの登録は無し。そろそろどちらか一方でも登録が行われてしかるべきなのではあるが。

一方、【隔週刊誌「ビジネスジャンプ」「スーパージャンプ」の統合月2回刊誌、「グランドジャンプ(GRAND JUMP)」に決定】で以前お伝えしたように、「ビジネスジャンプ」「スーパージャンプ」両誌は休刊となったため、今件印刷部数追跡記事で長年継続掲載していた両誌は、データ掲載誌としては除外。代わりに両誌の再構築誌的な立ち位置で登場した雑誌「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」のうち、前者のみが前回から参入している。「-プレミアム」は月刊誌だが、非公開の方針は継続。統合・再分割のパターンは比較的稀有なため、その後の両誌の動向は何かと参考になることもあり、公開が望まれる。

その「グランドジャンプ」の今期印刷数は22.7万部。早くも「ビジネスジャンプ」の最後期データ23.9万部を下回る値となってしまった。今後の動向が気になるところではある。

前期・前年同期比の比較をしてみよう
さて、これで最新期とその前の期の印刷部数を棒グラフ化できたわけだが、続いてこのデータを元に各誌の(前・今期間の)販売数変移を計算し、こちらもグラフ化を試みることにする。季節変動「など」を無視することになるが、短期間の変移ではむしろこちらのデータの方が重要。

今件は約3か月間にどれだけ印刷部数(≒販売部数)の変化があったかの割合を示すもの。当然ながら、今回データが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌はこのグラフには登場しない(が、両方とも該当する雑誌は無い)。

まずは少年向けコミック誌。

雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年4-6月期、前期比)

まずは「ゲッサン」「コロコロイチバン!」の伸びっぷりが目に留まる。「ゲッサン」は「漫画力絶対主義」をキャッチコピーとする月刊の漫画誌で、積極的な【サイト展開(ゲッサンWEB)】も特徴の一つ。今期では前期比で4割強の増加を示しているが、これは2012年6月号(同年5月12日売り)から連載を開始した、あだち充先生の作品「MIX」によるもの。同氏の代表作の一つ「タッチ」の続編的な立ち位置にあることも人気の材料となり、掲載初号は増刷がかかった上、第一話が7月号などに再掲載される事態となった(【あだち充の「MIX」第1話をサンデー&ゲッサンに再掲載(コミックナタリー)】)。

その直後に続くのは、前期で初めて(恐らくは2011年4月売り号からの月刊化に伴う形で)データ公開が始まった「コロコロイチバン!」。「月刊コロコロコミック」の増刊号で、タイアップ色の強い作品や有力作家の新作お披露目場、さらには本家よりもやや低い年齢層を対象にしている(以前の記事で紹介した「最強ジャンプ」にややポジションは近い)。こちらは前期比で36.5%のプラス。2012年7月14日から公開を開始したポケモン映画『劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ キュレムVS聖剣士 ケルディオ』関連の直前情報が上乗せの要因となったものと思われる。あるいは『2012年6月号』付録の「仮面ライダーフォーゼ マジックハンドスイッチ 限定クリアバージョン」が注目を集めたのかもしれない。

他方「少年サンデーS(スーパー)」は、今回唯一の赤塗り状態。ただしこれは前期で解説した「リニューアルに伴う大幅増」の反動によるもので(4.3万部から3.7万部)、今しばらくは動向を見極める必要がある。

その他の雑誌は「別冊コロコロコミックスペシャル」がやや健闘、他はマイナスを示しているものが多いが、誤差の範囲に収まるものなので、さほど心配は要らない、はず。

続いて男性向けコミック。

雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2012年4-6月期、前期比)

今回はプラス誌が3誌のみ、マイナス値を示す雑誌がほとんど。「誤差」を超えたものは7誌と、少年向け雑誌と異なり、状況は思わしくない。かねてからの傾向にある通り、「コミック乱三兄弟」(「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」「コミック乱」「コミック乱ツインズ」)の底力が改めて認識される。ここまであからさまな結果が出るのも珍しい。

一方で今四半期で3回目となる「スーパーダッシュ&ゴー!」は、今回も前期比でもっとも大きな下げ率となってしまった。元々印刷証明部数がさほど多くないのも一因だが(今回は3.0万部)、少々不安を覚えざるを得ない。

以上、前四半期比についてチェックを入れたが、前期(1-3月)は冬休みと春休みが入ること、今期(4-6月)は学校の休みが無く、新年度で雑誌の定期購入開始の良いタイミングであることを考えると、もう少しプラスの雑誌があっても良い気はする。

さて一連の定点観測を続けているおかげで、過去のデータを用いて「前年同期比」のデータを算出できるようになった。今回もいわゆる「季節属性」を考慮しなくても済む「前年同期比」のグラフも掲載する(例えば今回なら、2012年4-6月と、その1年前の2011年4-6月分の比較というわけだ)。純粋な雑誌の販売数における、年ベースでの伸縮率が把握できる。

雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2012年4-6月期、前年同期比)

上記で取り上げた「新装刊」の「少年サンデーS(スーパー)」が、前年同期比でも大きな伸びであったことが分かる。そして同列で解説した「ゲッサン」も、前期比だけでなく前年同期比でも大きな値が示されている。「ジャンプスクエア」は伸び率こそ7.4%ではあるが、部数は35.7万部と大きめなため、これは実質的に「少年サンデーS(スーパー)」「ゲッサン」と同レベルの健闘ぶりと評しても良い。

これら極端なプラス事例に半ば隠れてしまったが、他の各誌は押し並べて軟調。マイナス10%超が5誌という値は決して「見て見ぬふり」ができる状況とはいえない。特にこの5誌は前年同期比でマイナス10%を何度となく計上しており、そろそろ「少年サンデーS(スーパー)」のリニューアルのような、何らかの活性化策を打ち出さねばならない状況下にあることは否めない。

また週中発売の二大週刊誌「週刊少年マガジン」「週刊少年サンデー」のうち、後者の現状が気になる。現時点の「週刊少年サンデー」部数は52.7万部と、他誌と比べればまだまだ大きな数字ではあるが、「週刊少年マガジン」との差異が3倍近くにまで開いてしまっている。何にしてもこの部数で、この前年同期比マイナスの値は、早急な「要対策考慮」の状況にあることは間違いない。

続いて男性向けコミック。

雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2012年4-6月期、前年同期比)

前期比で触れた「コミック乱三兄弟」が、順位こそ違えどそのまま上位・プラス陣に陣取っており、他はおしなべてマイナスという、やはり特異にして、同時に男性向けコミック誌の現状を顕著に語る結果が出てしまっている。

前回の記事で触れた、特殊事情を持つ「モーニング2」はともかく、「ビックコミックスペリオール」「ビックコミックスピリッツ」などの軟調さが気になる。特に「スペリオール」は太田垣康男先生による「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の掲載がなされた上でこの値であることを考えると、状況回復を果たすためには何をしなければならないのか、色々と考えさせられてしまう。



今四半期データは東日本大地震・震災の影響(直接の購入性向の減退に加え、インクや紙、付録用素材の不足)はほぼ払しょくされており、通常の出版業界動向を反映したもの。むしろ前年同期比においては多少なりとも震災要素の反動によるかさ上げが考えられる(2011年4-6月期は、多分に東日本大地震・震災の影響で大きなマイナス値が出ている)。にもかかわらず多くの雑誌でマイナス値を計上している状況からは、全体として売上の減少傾向、業界としての縮小の動きが継続している事実が再確認される。

特に「前年同期比で印刷部数がマイナス10%超え」を繰り返す雑誌が複数存在している状況は、雑誌そのものの休刊・デジタル化への移行、「グランドジャンプ」として新生を果たした「スーパージャンプ」「ビジネスジャンプ」両誌の統合のような雑誌の再編、そして「少年サンデーS(スーパー)」のようなダイナミックなリニューアルが起きる可能性を多分に示唆している。

【1か月の購入金額は143円!? 週刊誌や雑誌、書籍の支出額をグラフ化してみる(2011年12月版)】【週刊誌や雑誌、書籍の支出額をグラフ化してみる(拡大版)…購入世帯率や購入頻度の移り変わり(2011年・完全版)】などで触れている通り、総務省統計局のデータによれば、雑誌・週刊誌では書籍同様に「購入する人がいる世帯の減少」「購入者の購入冊数の減少」と多元的に雑誌離れが起きている。言い換えれば「家族誰一人として雑誌を買わなくなった」「買っている人も買う冊数を減らしている」事態が進行している。雑誌販売の一番の窓口といえるコンビニでも【コンビニの出版物販売額をグラフ化してみる(後編:全体編)(2011年「出版物販売額の実態」版)】で示した通り、出版物販売額は減少のさなかにあり、「雑誌離れ」が進んでいる。コンビニの雑誌コーナーを見ても、付録つきの雑誌が増えると共に、一誌で複数の平積みの山を形成することが少なくなっているのを実感している人も多いはず。

もちろん堅調さを続けている一部雑誌のように、適切な読者ニーズをとらえることで、少年・男性向けコミック誌にもまだまだ復権の芽は残されている。読者の声に応える作品を展開すれば、素直に部数は増え、増刷が行われる事例もある(今回なら「ゲッサン」が良い例だ)。

さらに紙媒体では無いため今データには直接は反映されなくなるが、デジタルメディアへの積極的なアプローチ、そしてデジタルとアナログ(リアル、紙媒体)との相乗効果を狙った企画の展開、さらには電子出版による「雑誌」の展開も検証課題として挙げられる。

Jコミ今年は欧米で大きな電子書籍ブームを巻き起こしたアマゾン・キンドルの日本展開版の発売も予定されており、これまでに無い大きな動きが予想される。先日【電子書籍リーダー「Kobo Touch」を7980円で販売…楽天、グループ会社のKoboの日本国内での事業開始を発表】で伝えたように、楽天が展開を開始した電子書籍リーダー「Kobo Touch」もまた、ムーブメントのきっかけになる可能性はある。一方で【Jコミ】のような過去の需要の掘り起こしで具体的・数字的な実績を次々と挙げ、新作への需要との連鎖反応を生じさせるサービスの堅調さも注目に値する。

携帯情報端末の浸透が、一般携帯電話からスマートフォン、そしてさらにはタブレット機などにも移行することで、雑誌の立ち位置はますます不安定・不確定なものとなっていく。紙媒体としての雑誌のスタイルを維持するにせよ、他メディアとの連動性を高めるにせよ、大胆なかじ取りが求められている。【米国で進む「本離れ」に歯止めをかけるのが電子書籍? 米書籍購読傾向をグラフ化してみる】などでも触れているが、海外ではすでに電子書籍リーダーなどを介したデジタルメディアでの書籍を読み説くことも、一般の紙媒体経由によるもの同様「読書」として取り扱う流れが主流という状況に目をそむけてはならない。

紙には紙の、デジタルメディアにはデジタルメディアの利点があることを認めた上で、一歩前に進む時はすでに来ている。すでに嵐の中に突入してしまっている感は強いが、それでもまだ適切なかじ取りをすることで、嵐を抜け出すチャンスは残されている。ただし、残された時間は決して長くは無い。

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