音楽ソフトがやや復調の兆し、だが…音楽CDと有料音楽配信の売上動向(2012年発表)

2012/03/30 07:25

日本レコード協会は2012年3月29日、「日本のレコード産業2012」を発表した(【発表リリース】)。同協会調査による2011年のレコード産業の概要を網羅した資料で、音楽業界の動向を多彩な面から確認できる、貴重な資料として注目すべきものといえる。今回はこの資料中のデータを元に、以前、音楽CDなどの売れ行きと有料音楽配信の売上をグラフ化して精査した記事の各種データを更新すると共に、2011年時点の動向を中心に再分析を行うことにする。

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まずは一番気になる「有料音楽配信」の2011年分における結果だが、金額としては719億6100万円、前年比で-16.3%の減退を示した。データの公開を始めた2005年から今回の2011年目で7年目となるが、前年比でマイナスの伸び率を示したのは前回2010年分に続き2年目。周辺環境の状況(不景気・若年層の消費抑制傾向の加速化、さらにはメディアの変化期にあること)などを考慮すれば、やや下げ方は急なものの、減少傾向そのものは理解できなくもない。

さてこれを、音楽ソフト(CDなどの音楽レコード媒体にDVDなどの音楽ビデオを加えたもの)と有料音楽配信(ケータイとパソコンなど)の双方を合算した売上推移について、グラフとして構成したのが次の図。後者は2005年以降分のみデータが公開されていない(本格的に普及し始めた年に合わせてある)ので、2005年から2011年までのデータを用いている。

↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上推移
↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上推移(2005年-2011年)

2007年までは「音楽ソフトの売上減を、有料音楽配信がカバーして余るほどだった」、言い換えれば「音楽業界そのものの売上は成長を続けており、CDなどの音楽ソフトの売上減は有料音楽配信にそのシェアを食われているからだ」と説明することができた。ところが2008年に至り、有料音楽配信の成長は続いているものの、それ以上に音楽ソフトの売上減が急速に進んでおり、市場全体の売上も落ち込む結果となってしまった。2010年は有望株とされていた有料音楽配信ですら前年比でマイナスとなり、音楽業界全体が深刻な不調にあることをうかがわせる。

2011年は少々動きに変化があり、これまで減少スピードは「音楽ソフト…急激」「有料音楽配信…地味な下げ」だったのが、双方の下げ具合が逆転してしまっている(音楽ソフトの前年比は2011年でマイナス0.6%・有料音楽配信はマイナス16.3%)。有料音楽配信の急激な金額減少についてレポート側では「モバイル実績の2割超もの減少」を最大起因と説明している。一方、スマートフォンを含む(今レポートでは、スマートフォン周りはインターネット経由として扱っている)インターネットダウンロードは数量・金額共に2割超の伸びを示している。「一般携帯からスマートフォンへの移行期」に伴う相場・単価の減退、操作管理がしやすいこと・保存量の増加に伴う無料データの利用増加などが遠因であることをほのめかしている。

音楽ソフトの中でも俗に言う「シングルCD」は昨年に続き堅調で、2011年は金額前年比でプラス16%・数量23%の伸びを見せている。これは注目すべき動きであり、購入者の購入性向の多様化、さらにはシングルCDにさまざまな付加価値を持たせて、「視聴」以外にも大きな意味合い、場合によっては主従逆転のような価値観を設定し(例:何らかのイベントへの投票権)購入をうながした結果によるところが大きい。ただし音楽ソフト全体で売上が落ちているのは、シングルの伸び以上にアルバムCDの落ち込みが大きかったからに他ならない。

音楽業界の動向を一歩引いた立場から眺められるのが次のグラフ。上記のグラフを1990年までさかのぼって再構築したものと、さらに有料音楽配信がデータ上に登場した2005年以降において、有料音楽配信と音楽ソフトの売上合計における両者の比率推移をグラフ化した。

↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上推移(1990年-)
↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上推移(1990年-)

↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の総計売上に対する比率推移
↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の総計売上に対する比率推移

有料音楽配信のデータは2005年からなのでそれまでは音楽ソフトのみだが、2004年以前は有料音楽配信そのものが無きに等しい状態だったので、グラフ形成上問題は無い。【「最近ミリオンセラーって減ってない?」の「ミリオンセラー作品数」を仕切り直してみる】など過去のCD売上に関する記事でも述べているが、1990年代後半に音楽業界はピークを迎えており、それ以降は売上の面で漸減する傾向にあった。

携帯電話上の着メロがスタートしたのは1996年。ただし2004年以前は計測対象とならないほど売り上げが小さかったことや音質の問題から、1996年-2004年の間の音楽ソフトの減少が、デジタル有料音楽配信のみに起因するとは考えにくい。2005年からは計測上無視できないほど有料音楽配信が成長を見せ、音楽業界に救いの手を差し伸べた形になっているのが分かる。

また、音楽業界の金額ベースでの縮小の中でも、有料音楽配信が確実にその比率を高めて「いた」のも確認できる。2010年時点ですでに1/4近くがソフト部門において音楽配信で占められていた。ところが2011年は上記にあるように「一般携帯からモバイルへの利用形態のスライド」「シングルCDの販促方法の多様化に伴う盛り返し」などがあり、少なくとも売上の面では、これまでの動きとはやや違った方向へかじ取りを見せる気配がある。

もっとも「主従が入れ替わった販促」は音楽そのものの市場・業界の拡大とは表現し難い。アルバムCDの動向を見るに、今年のシングルCDの動きが中長期的なものとなるとは考えにくい。



上記にある通り、音楽視聴需要の多様化とシングルCDの販促手法により、2011年の音楽ソフトの売上は2010年から大きな戻しを見せている。

↑ 音楽ソフトの売り上げ推移(前年比)
↑ 音楽ソフトの売り上げ推移(前年比)

具体的に数字として表れている以上、この手法には一定度の評価を与えるべきといえる。しかし同時に繰り返しになるが、「曲を聴くためのメディア」「その他の付加価値」という主従関係を逆転させる方法は、多分にドーピング的なものがあり、中長期的に市場・業界を支える「音楽の中身・質」とは多分にずれたベクトルによる結果でしかない。ふくらんで大きくなるが、中身がスカスカの風船状態になりかねないリスクをはらんでいる。

他方、有料音楽配信部門でもスマートフォンの台頭で、大きな転換点を迎えつつある。曲の管理の簡易化と収録容量の増加、無料曲の増加、市場単価の減退など、単に一般携帯からスマートフォンに移行する過程期に伴う混乱以外の、中期的な「売上」減少を予見させる状況が揃っている。すべての携帯電話がスマートフォンにとって代わることはあり得ないが、スマートフォンの比率が今後も増加することは間違いなく、これが有料音楽配信部門にどのような変化をもたらしていくのか、気になるところではある。

さらに前世紀末から見られた、少子化などによる「人口レベルでの市場縮小」は避けることが出来ない。複数のパラメータが、あるものは単独で、あるものは他要素と多分に関係しながら、音楽市場・業界に大きな変化を与えつつある。今後の動向には周辺業界の動きも合わせた上で、注視していかねばなるまい。

※「スマートフォンの普及と共にiTuneストアから購入する人が増え、それが今件数字には反映されないからでは」との指摘がありました。この件について日本レコード協会に確認をしたところ、iTuneストアでの購入も有料音楽配信の項目計算上には含まれているとの回答をいただいております。

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