70年近くにわたる書籍のジャンル別出版点数動向(最新)

2023/12/28 04:36

このエントリーをはてなブックマークに追加
2023-1228総務省統計局に収録されている数々の時系列データのうち、年単位で更新される【日本統計年鑑】にある出版関連データ(「出版・マスコミュニケーション」の項目)を基に、出版業界などの中期的な動向を推し量るとともに、今後の状況推測を行っている。今回は戦後における書籍のジャンル別出版点数の、中期的な動向を見ていくことにする。

スポンサードリンク


書籍の出版点数はおおよそ増加の一途をたどっていたが、2005年以降一時的な落ち込みを示す。その後再び増加の兆しを見せたが、2013年をピークに再度下落に転じている。

↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース・2015年以降は「出版指標年報」ベース)(再録)
↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース・2015年以降は「出版指標年報」ベース)(再録)

それでは書籍のジャンル別の出版点数動向はどのような動きを見せているのだろうか。「総記」「哲学」「歴史・地理」「社会科学」「自然科学」「工学・工業」「産業」「芸術・生活」「語学」「文学」「児童書」「学習参考書」と大別した上で、積み上げ式、そして個別要素ごとに折れ線グラフに作成したのが次の図。なお先行記事【戦後の雑誌と書籍の発行点数(「出版年鑑」など編)(最新)】で解説の通り、日本統計年鑑では2020年版(2019年発行)以降該当データの参照資料が従来の出版ニュース社「出版年鑑」から、公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の「出版指標年報」に変わってしまった。これは出版ニュース社発行の「出版年鑑」が2018年版で休刊になったことによるもの。従って2015年分以降のデータ(「出版指標年報」が取得元でもっとも古いのが2015年分)は「出版指標年報」の値がベースとなっている。2014年分までと2015年分以降との間には連続性は無いか、この際仕方がない。

実際データを参照すると2014年分と2015年分との間では大きな開きがあり、カウント方法が異なっていることが推測される。「総数」「総記」「歴史・地理」「自然科学」「工学・工業」「産業」「児童書」では大きな減少、「社会科学」「学習参考書」では大きな増加が確認できる。グラフでは2014年と2015年との間にイレギュラーな動きが多々見られるが、これはデータ取得元の変更によるもので、該当ジャンルに大きな変化があったわけではないことに注意されたい。

↑ 書籍出版点数(「出版指標年報」ベース、区分別)(2022年)
↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース、区分別)(2022年)

↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース・2015年以降は「出版指標年報」ベース、区分別)(積み上げグラフ)
↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース・2015年以降は「出版指標年報」ベース、区分別)(積み上げグラフ)

↑ (「出版年鑑」ベース、2015年以降は「出版指標年報」ベース、区分別)(折れ線グラフ)
↑ (「出版年鑑」ベース、2015年以降は「出版指標年報」ベース、区分別)(折れ線グラフ)

データの取得元の変更に伴う動きを別にすると、目立つところでは1990年代前半に「芸術・生活」の項目が急上昇している。色々な理由が考えられるが、1991年発売の写真集『Santa Fe』をきっかけとする写真集ブームが一因かもしれない(「芸術・生活」項目に区分されたとすれば、だが)。2011年にも似たような現象が発生しているが、こちらは同年に発生した東日本大震災の被害状況を撮影した写真を用いた、ビジュアル集的な書籍が数多く登場しており、それがカウントされた可能性はある。

また、項目中では数少ない減少傾向にある「総記」については、「主題が複数の分野あるいは全分野におよぶものや逆にいずれの分野にも属しないもの」との定義を考えれば、百科事典の類の需要減少とも併せて、納得がいく。

直近の2022年では多くの区分で前年から出版点数が減少している。特に「社会科学」は622点、「歴史・地理」は563点も減っている。逆に「文学」は37点、「児童書」は19点増加しているのが注目に値する。

よい機会でもあるので、今データから子供に直接関係しうる項目「児童書」「学習参考書」の項目を抜き出し、グラフを再構築しておく。少子化問題の記事で、今後参照資料として役立つこともあるに違いない。ただしデータの取得元の変更で「学習参考書」が間抜けな形になってしまったのが残念だが。

↑ 書籍出版点数書籍出版点数(「出版年鑑」ベース・2015年以降は「出版指標年報」ベース、児童関連)
↑ 書籍出版点数(「出版年鑑」ベース、児童関連)(1954-2016年)

「児童書」は前世紀末から急増し、2005年あたりから失速傾向を見せた後、再び持ち直し、2014年には最高値を更新している。そして中期的視点で見れば高い水準を維持していることに変わりはない。一方で「学習参考書」は前世紀末から激しい変動を見せつつも、値としてはやや高めのまま(2014年から2015年にかけての急上昇は前述の通り、データの取得元の変更によるもの)。少子化問題が叫ばれ始めた前世紀後半からは、概してゆるやかではあるが増加の一途をたどっているのが分かる。今件は出版部数の総数とはまた別だが、少なくとも多様化、種類の増加を果たしていることは間違いない。



今件データで注意してほしいのは、あくまでも「出版点数」であり、「印刷証明部数」や「販売部数」ではない点。書籍点数が増えても1点あたりの販売数が伸び悩んだのでは、業界の拡大・発展が起きているとは言えない。逆に「粗製乱造」の状態とも受け止められかねない。そのあたりの業界動向・事情に関しては、毎年定期発刊の「出版物販売額の実態」などを随時見て行けば、理解はできるはずだ。


■関連記事:
【電子書籍リーダー持ちも紙の書籍は結構読む、けれども……】
【新刊書籍・雑誌出版点数や返本率推移】
【電子書籍利用者約25%、そのうち7割強は「今後紙の本を主に利用したい」】
【この4年間の電子書籍利用者推移を探る】

スポンサードリンク


関連記事


このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2024 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|Twitter|FacebookPage|Mail|RSS