「マック・ピープル」はジョブズ氏や新OSが上昇原因か…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2011年7月-9月)

2011/11/14 06:46

【社団法人日本雑誌協会】は2011年11月10日、2011年7月から9月分の印刷部数を公表した。主要定期発刊誌の販売数を「印刷証明付き部数」ベースで公開したデータで、正確さの観点では各誌が自ら発表している「公称」部数よりはるかに高精度、精密な値といえる。今回は「ゲーム・エンタメ系」のデータをグラフ化し、前回掲載記事からの推移を眺めてみることにする。

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データの取得場所の解説や、「印刷証明付部数」など文中に登場する用語の説明は、一連の記事まとめ記事【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明が行われている。そちらで確認をしてほしい。

それでは早速、まずは2011年の7-9月期と2011年4-6月期における印刷実績を見ることにする。

2011年の4-6月期と2011年7-9月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績
↑ 2011年の4-6月期と2011年7-9月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績

今回は幸いなことに、休刊などによる脱落誌は無し。また状況については、やはり大勢として「Vジャンプがずば抜けた売上」「週刊アスキーの健闘」「アニメ系ではニュータイプがトップ」などの傾向は3か月前と変わらない。この傾向は2年以上継続したものであり、このジャンルにおける「鉄板トップ3」といえる。また、東日本大地震・震災による影響を受けた前期と比べれば、数字を多少戻している雑誌もいくつか確認できる。しかし中長期的な「印刷部数の逓減」という流れを押しとどめるまでには至っていない。

次に直近3か月における印刷数の変移はどのようなものか、グラフ化してみることにする。

雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2011年7-9月期、前期比)
雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2011年7-9月期、前期比)

3か月単位の変動値であり、季節特性だけでなく「取り上げている作品の人気」「新作映画やゲームとの関連」「付録」「前回期の動向」など、イレギュラー性の高い要因に大きく左右される可能性が高いことをあらかじめ書き記しておく。今期は前期と比べるとやや状況が改善されているように見えるが、これは多分に前期が東日本大地震・震災の直接・間接的影響(紙やインク不足、さらには節電周りによる生産調整)を受け、その反動分が底上げしているものと考えられる。

それらを指し引いても、隔月刊で情報の速報性という点では月刊誌に劣るものの、内容の充実性が読者に受け、さらに付録も充実していることから着実な伸びを見せる「PASH!」、そして「マック・ピープル」「コンプティーク」の伸び率の高さは大いに目立つ。

「マック・ピープル」は【米アップル会長 スティーブ・ジョブズ氏死去】などで伝えているように、先日亡くなれたアップルの会長、スティーブ・ジョブズ氏の小冊子や特集、新OS Lionについて懇切丁寧な記事展開をしていることなど、ツボを突く企画構成が受け入れられたものと思われる。

また「コンプティーク」は該当期間において、『シュタインズ・ゲート』のオリジナルドラマCDや「TYPE-MOON」10周年ドラマCDなど、角川のコンテンツボリュームの奥深さを十分に反映した付録が目に留まる。これらが定期購入読者以外の「一見さん」や、非定期購入者の購入意欲をかき立てたのだろう。

前期大きなマイナス値で懸念視された「Vジャンプ」「ファミ通DS+Wii」は両誌ともかろうじてプラス。震災後のマイナス値との比較という「底上げ要素」を考慮するとやや危ういところもあるが、少なくとも短期的な状況の悪化は免れた感はある。

さて定点観測を続けているおかげで都合一年分以上のデータが蓄積でき、中期的な視点からデータの推移が確認可能となった。そこで今回も前年同期比の変化率をグラフ化する。これならいわゆる「季節特性」による影響は考慮することなく、純粋にその雑誌の動向を年ベースで確認できる。

雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(前年同期比)
雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2011年7-9月期、前年同期比)

前期比で上位に上がった3誌「マック・ピープル」「PASH!」「コンプティーク」は前年同期比でもプラス陣に収まっており、これらの雑誌が単に前期の震災影響からの反動だけでなく、純粋な売上増による上昇の色合いが強いものと判断できる。「アニメージュ」や「声優アニメディア」など、どちらかといえばコア層色が強いものが、上位に多く位置している(「声グラ」のように、少々残念な位置にいるのもあるが)。これらは読者として設定している層への積極的かつニーズに応えた雑誌構成や付録提供が、現状維持・堅調化という結果に表れていると見てよいだろう(主なアニメ系雑誌の動向については【「ゾッ」とするかな...? 三大アニメ誌の動向】も参照のこと)。

一方で10%超えのマイナス値を示す雑誌だが、「ファミ通DS+Wii」や「ハイパーホビー」「アスキー・ドット・ピーシー」などの常連に食い込む形で、前期から続き、印刷部数そのものの雄として取り上げられることの多い「Vジャンプ」が、マイナス15.2%という値をはじき出してしまっている。同誌は印刷部数も大きい(今回期は29.7万部)が、同時に特集・付録内容とそれらに対する需要を考慮し、数万部単位での調整を行っているので、「誤差の範囲」との解釈もできる。しかし前年第4四半期(10-12月)以降、増減の上下幅を5万-10万部単位で下方修正した気配も感じられる。次期においても回復の兆しが無ければ、この推論はほぼ決定的なものと見てよいはず。

なお「ファミ通DS+Wii」の相変わらずな動きを見る限り、「3DS大幅値下げ」の効果は同誌にまでは及ばなかったようだ。



震災の影響から立ち直りを見せる面もあるが、前回記事同様、印刷部数が漸減している雑誌が数多く確認され、市場全体の不安程感は否定できない。一方で上位、前期比・前年同期比でプラスを見せる、あるいは堅実な動きをしている雑誌には「他誌には無い、自誌のオリジナリティ・コンテンツ(記事、付録、対象となる商品)や工夫」「時節に連動した読者層のニーズを適切につかみ、それに応えるコンテンツの提供」「自社、自雑誌の『資産』の有効活用」が際立つ傾向があり、それが読者に受けいれられ、印刷数(販売数)を伸ばしている。

不景気で可処分所得が減少し(主要購読者層たる若年層は特に減退中)、さらに携帯電話や携帯ゲーム機に「読者になるかもしれない人たち」の時間を奪われる。その上ささいな情報なら即時にインターネット経由で手に入る環境が浸透し、雑誌に対する興味関心も薄れている。とりわけスマートフォンの登場と普及は、「機動性の高い娯楽」(例えば雑誌、携帯ゲーム機)に大きな打撃を与えている(スマートフォンの浸透が主に若年層から進んでいることを考えれば、エンタメ市場に与える影響は、加速度的といえる)。

お金や時間を割いても「手にとって読みたい」と思わせるだけの魅力を出すには、そして紙媒体ならではのメリットを読者に実感させるには、「ひと山何百円」に見える同じようなものでは無く「他には無い特別な一品」に見える個性的な雑誌を、創り手側は送りださねばならない。

もちろん「読者のニーズを適切に、深く追求する」だけを求め、同人誌やサークル誌のノリを突き進むのも問題。一定数量を販売する(=一定数の不特定多数から成る人達に支持される)商業誌であることを忘れてはならない。つまり「適度」で「良識・常識の範囲内」での個性で留める必要がある。あまりにも個性が強過ぎると、かえって読者を減らしかねない(その「ノリ」が通じる「市場」が、雑誌を支えるのに十分な力を持っているのなら話は別だが)。

印刷部数上でプラスを見せている雑誌たちは、そのさじ加減を会得し、さらに試行錯誤を繰り返しながらも、プラスへの歩みを続けている。上位陣の雑誌をくまなく読み解くことで、不調著しい雑誌業界における状況改善策のヒントが見いだせるに違いない。


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【週刊誌や雑誌、書籍の支出額をグラフ化してみる(拡大版)…(下)購入世帯率や購入頻度の移り変わり】

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