出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(10年経緯)(2011年「出版物販売額の実態」版)

2011/11/07 06:20

先日【2011年版『出版物販売額の実態』を入手】で報告したが、昨年【出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる】などで用いた、出版業界のデータを網羅した『出版物販売額の実態』の最新版「2011年版」を入手することができた。そこで【出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる(2011年「出版物販売額の実態」版)】などのように、逐次「2010年版」で作成したデータの更新と、内容の再検証を行っている。今回は出版物の種類別売上の変化をグラフ化して精査した記事(10年経緯)の更新を行う事にする。なお最新版は昨年版と比べて過去のデータも再精査の上で修正が入っているため、昨年版を元にした記事内容やグラフと、違いが生じる可能性がある。

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まずは書店における出版物の売上高では額面上大きな売上を占める3大分類「雑誌」「コミック」「文庫」(全体ではこの3区分で売上全体の約2/3に達する)、それに加えて「新書」の計4区分を抽出した、過去10年分における売上高前年比の推移を折れ線グラフにしたのが次の図。

↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)
↑↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)

2009年は大幅な下げを記録した「新書」をはじめ、各項目で状況の悪化のスピードが緩まる傾向が確認できる(プラスで無い限り、いくらマイナス値が小さくなっても売上高そのものは前年と比べて減少していることに注意)。「雑誌」は市場規模が大きいこともあり(全出版物販売額の1/3超)変移は緩やかだが、それでも2010年も前年比マイナスだったことには違いない。

一方「コミック」は単体としては2007年ぶり、前年比5%超の値は2003年以降の大きな伸びを見せた(プラス5.6%)。原因はいくつか考えられるが、『ONE PIECE』『鋼の錬金術師(特に最終巻)』『君に届け』『JIN-仁-』など、若年層から中堅層にかけて幅広い年齢層を対象に、ヒットセラーが相次いだことが大きな要素のようだ。複数タイトルで他メディアとの連動による話題性の向上も、見逃すことは出来ない。

続いて「児童書」「学参(学習参考書)」「辞典」「実用書」「地図旅行」。ややこしい話になるのだが、「学参」と「辞典」、「実用書」と「地図旅行」はそれぞれ2004年までは同一区分でカウントされていたため、それぞれは2004年までまったく同じ値となっている。そして2010年では再びそれぞれが合算して1項目に戻ったため、再び同じ値を示している。これら「2004年まで同じ」「2010年で同じ」区分内の項目は、同じ種類のマークを名前の後ろにつけて、把握できるようにしている。

↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)
↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)

2008年に「辞典」が大きく売れ行きを伸ばした理由は昨年記事で補足したように、10年ぶりに改訂された「広辞苑」の発売(第六版)と、【2008年辞典売上活性化の謎】で解説した「辞書引き学習」のブームによるもの。そのイレギュラーを除けば、2007年の不況以降は押し並べて軟調、2010年は前年比マイナスには違いないものの、やや下落にブレーキがかかりつつある、というところか。

最後に「文芸」「ビジネス」「専門」「その他」。このうち「ビジネス」「専門」については、やはり2004年まで同一項目でカウントされている(こちらは2010年の項目再統合は無し)。また「その他」は2010年では「総記」と項目名を変更している。

↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)
↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)

「その他>総記」とは文具や図書券、セルビデオ、レジ回り商品文具などを指す。【短所を長所に...電子たばこ付きの「本」、ミリオンセラーに】で紹介した電子たばこもここに含まれる。2009年版では「このことを考えれば、2010年分はかなりの伸びが予想される」としたが、その通り2010年では大きな伸びを示した(幾分は項目区分の変更も関係しているのだろうが)。「文芸」の上下の振れ幅が目に留まるが、これはヒット作の状況次第で大きく左右されるもの。中期レベルでの傾向は確認できない。



以上駆け足ではあるが、主要分類別に出版物の売上推移をチェックしてみた。「新書」の持ち直し(前年比マイナスには違いないが)をはじめ、2009年と比べると状況悪化にブレーキがかかったのが第一印象となる。同時に、数々のヒットセラーに恵まれてプラスに転じた「コミック」や、恐らくは電子たばこによる「総記」の動きは注目に値する。

一歩引いて出版物市場全体を見渡すと、可処分所得の減退、消費性向の変化(特に震災後は大きな動きが確認できる。2010年のデータには反映されていないが)、娯楽の多様化と時間・費用の奪い合い、そして「読書」という観点に限っても電子書籍の登場と広まりなど、出版物としての売上は減少しうる要素を山ほど抱えている。しかしこれらの動きは一、二年で降ってわいたものではなく、それよりももっと前から生じていたもので(震災周りは別だが)、「変化」はそれが加速化したに過ぎない面も大きい。そして似たような「変化」はこれまでにも何度となく発生している。

注意したいのは、「これまでにも」の事例も合わせ今回の「変化期」においても、単なる縮小とは違う「スタイルの変貌」「進化」の様相を合わせ持っていること。他メディアとの積極的な連携、電子書籍など多様な方向性への展開という、新たな富肥市場をつかむ選択肢も用意されている。

【出版業界の決算状況をグラフ化してみる】で、全体として「耐える」時期には違いないものの、出版社の業績動向が二分化していることについて触れた。それらも合わせて考えると、昨今の「出版不況」は業界が進化を遂げるために課せられた試練との解釈もできよう。

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