「持ち直しのテンポが緩やかに」…2011年8月景気ウォッチャー調査は現状・先行き共に低下

2011/09/09 12:10

内閣府は2011年9月8日、2011年8月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、現状判断DIは先月から転じて再び水準値50を割り込み、先行き判断DIも50未満を継続する形となった。結果として、現状・先行き共に低下傾向を示している。基調判断は「景気の現状は、東日本大震災の影響が残る中で、このところ持ち直しのテンポが緩やかになっている」と、回復基調が足踏み状態になったことを示している(【発表ページ】)。

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円高が大きな要素・50を再び割り込む状況
文中・グラフ中にある調査要件やDI値については今調査の記事一覧【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で説明している。そちらで確認のこと。

2011年8月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比マイナス5.3ポイントの47.3。
 →5か月ぶりの減少。「やや良くなっている」が大幅に減り、その分「やや悪くなっている」が増加している。
 →家計ではテレビなどの駆け込み需要の反動と天候不順、さらには農畜産物の買い控えの動きから低下。企業は円高の影響が出始めたことで低下、雇用もやはり円高を受けて慎重な姿勢を見せる企業も出てきたことから低下。
・先行き判断DIは先月比でマイナス1.4ポイントの47.1。
 →生産活動が回復する一方で、消費者と企業の双方が先行き不透明感を持つこと、円高の影響を懸念する形で、すべての部門でマイナス。
駆け込み需要の反動はある程度予測がついたが、天候不順と農畜産物の買い控えはイレギュラーな話。一方で先月も指摘した、「先行き不透明感」「根拠の無い期待感に対する、現実を認識した上での反動的失望」が数字となって現れた形といえる。さらに現状・先行き共に、急激な円高に対する懸念が非常に大きいのが目に留まる。

「現状」でも現実と直面を始める
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
↑ 景気の現状判断DI

今回発表分は前月から転じて全部門でマイナス。いくつかの部門で基準値の50を割り込み、50超の項目は雇用とサービス関連の2つのみとなった。2ケタ台のマイナスこそないが、家計部門での落ち込みが大きい様子も見て取れる。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。主要指数の動向のうち、もっとも下ぶれしやすい雇用関連の指数の下がり方が分かりやすいよう、「前回の」(つまり2001年当時の)下げの最下層時点の部分に赤線を追加している。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
↑ 2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

グラフを見ればお分かりのように、2008年後半以降いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに、各指標は直近過去における不景気時代(ITバブル崩壊)の水準を超えて下落。2008年12月前後でようやく下落傾向が落ち着く状態となった。その後は大きく戻しを見せたものの基準値50までには戻らず、それ以降は50を天井とする形で小さな上下変動を見せていた(2010年頭から2011年2月あたりまで)。

しかし今年3月において、東日本大地震の影響を受けて全項目が単月では、リーマンショックを超える勢いで下落する。幸いにもその後の回復ぶりも記録的な上昇カーブを描き、7月分では震災直前の水準にまで戻す形となった。合計値で50を大きく超えたのは2007年夏の金融危機以来のことだが、これは震災による大急落のリバウンドの色合いが強いと解釈した方が、道理は通る。そして今回の8月分では、やはりそのリバウンド説を裏付けるかのように、事実上失速。多くの項目で再び基準値50を割り込む形となった(雇用関係は元々50を超えることが多く、今回も上回ったまま)。

・2010年に入り、
下落から反転の傾向へ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
確認ずみ。
・もみ合いをこなしながら
回復をうかがう状況だった。
・東日本大地震による震災が
すべてを吹き飛ばし
急降下状態に。
・震災前までの状況に
リバウンド的な回復したが、
早くも失速か。
「前回(2001年-2002年)の景気後退による急落時には、家計や企業、雇用動向DIの下落にずれがあった。それに対し、リーマンショック時の大幅な下落期(2007年後半-2008年中)では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」状態だったことはグラフの形から明確に判断できる。そしてその現象が「世界規模で一斉にフルスピードで景気が悪化した」状況で、互いの数字の下落度合いにズレる余裕すら与えられなかったことを表しているのは、これまでに説明した通り。その後は「水準値50にすら届かない下方圏でのもみ合い」が続いている状態だった。

そして今回の東日本大地震の影響もまた、傾向的にはリーマンショック時のそれに近い。一か月で2001年前後の不景気の最悪期と同じ水準にまで一挙に落ちたのだから、「急降下」よりは「垂直落下」に近い状態といえる。

地震直前の流れとしては、雇用指数とその他の指数の差が大きくなりつつあり、これは2003年後半以降の傾向をなぞっているようでもあった。このパターンが継続すれば、やはり同じパターンの動きを見せ、「その時点での」景気状況がしばらく続く可能性が高かった。しかし今回、東日本大地震の影響がすべてのパターン動向の可能性を打ち消してしまう。

今月は震災後の急降下に連動する大きなリバウンド的上昇が終わり、再び現実を見据えた動きに移行したことを指し示している。先月コメントした「各種経験則による不景気への突入懸念も杞憂で終わる」が、節電や震災の傷跡は確実に浸透していることも合わせて考えると、単なる杞憂では済まなくなるかもしれない。

景気の先行き判断DIは先月動向から続いて減少している。

景気の先行き判断DI
↑ 景気の先行き判断DI

「雇用指数はそろそろ頭打ちのようで」とした先月のコメント通り、今月はマイナスに転じている。とはいえ各項目中「先行き」では唯一基準値の50を超え、抜きん出た値には違いない。下げ幅は各項目では穏やかなものだが、この雇用関連と、製造業がやや大きめで、全体の値をマイナスに押し下げる形となった。

2000年以降の先行き判断DIの推移
↑ 2000年以降の先行き判断DIの推移(前回不景気時の雇用関連の最下層に位置する赤線は当方で付加)

総合先行きDIはすでに2008年後半の時点で、2001年後半時期(前回の不景気時期)における最下方と同等、あるいは下値に達していた。これはそれだけ先行きに対する不透明感が強かった、前例のない不安感を多くの人が実感していたことを示している(同時に株価同様に「半年-1年先を見通している」という先行指数そのものの意味をも裏付けている)。それ以降は横ばいか少しだけの上げで推移していたが、2008年10月で大きく底値を突き抜けてしまった。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。株安や景気の悪化(「リーマン・ショック」)が、大きな不安感の中にある人々の不安定感を極限まで増殖させ、家計や企業の先行き心理にマイナス影響を与えた状況が読みとれる。

その後はリーマンショックから立ち直ったものの、不安な状況を反映するかのように、基準値50を上回ることなく、それを天井とする動きを続けていた(この状況も「現状」とほとんど変わらない)。そして今回の震災による大幅な下落はリーマンショックのそれと同じ、「すべての項目が一斉に下げ」たものとなっている。しかも落下角度はリーマンショックをはるかに超えたもの。下落による値の底値は、「リーマンショック」と「2001年の不況期の最下層」との中間程度となった。

そして今月は「現状」と同じ、先月までのリバウンド的な回復は終焉を迎え、先月値と比べて失速状態の形で低下の動きを示している。一方で雇用関連の値の下げは大きいが、他の項目とのかい離はまだ十分なものがあるのが幸い。雇用関連の値も大きく下値を見せるようならば、強い警戒をする必要がある(不景気の期間においては、雇用関連値が他の値を下回る傾向があるからだ)。

特需は過ぎ、円高が不安感をかさ上げ
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)(先行き・全国)に関して事例を挙げてみると、

■現状
・低調だった宿泊予約も当月に入ってからは順調に伸びており、料飲部門の売上も前年を上回っている(観光型ホテル)。
・東日本大震災の自粛ムードも一段落して、平常に戻りつつある(商店街)。
・8月は全体的に厳しい。特に地上デジタル放送への完全移行による家電特需の終息が全体の流れを止めた感がある(百貨店)。
・中旬以降、真夏の暑さから急に涼しくなり、雨の日も多かったことから、夏物商材の動きが止まっている(スーパー)。
・盆までは何とか景気は良かったが、盆を過ぎたらめっきり来客数が少なくなり、商店街の人通りも少なくなっている(その他飲食[居酒屋])。
・アナログ放送の停波以降、テレビを中心に家電全般の需要が冷え切っている(家電量販店)。
・放射線物質の拡散による風評被害で、桃など旬の果物の販売量が前年比15%減で、牛肉も出荷停止の影響から同20%減となっている(スーパー)。

■先行き
・今後は冬の節電に伴い、温感商材への需要が高まる(百貨店)。
・地上デジタル放送に関連した商品に変わる主力となる商品が無い(家電量販店)。
・これといった明るい兆しがないため、今後も厳しい状況となる(百貨店)。
・依然として食品の放射能汚染問題への関心が高く、産地へのこだわりが目立つほか、買い控えの動きもみられる(スーパー)。
・世の中に対する漠然とした不安感と節電・節約意識から、消費行動に良い材料は見当たらない(スーパー)。
などとなっている。一部で景気の良い声も聞かれるが、テレビ周りの特需が終わった後における家電周りの起爆剤が見当たらないこと、世の中にまん延している不安感に節電などの節制ムードが加わり、消費が抑えつけられているのが分かる。

特に先月も強調した点であるが、全般的にインフラという観点では流通はほぼ復旧したものの、電力周りの話が消費者の動向に小さからぬ影響を与えているのも確認できる。「日常ごく当たり前に存在し、空気のような感覚で使えるもの」に不安定感を覚えると、それだけでも身構えてしまい、消費を抑えてしまうのは、生物としての防衛本能に近いものと表現できよう。



金融危機による市況悪化で
景気感は一挙に急降下。
耐久消費財の値上げや雇用喪失など
実体経済への傷も深い。
海外の不景気化も影響し、
外需中心の企業も大きな痛手。
内需中心の企業にも波及する。
「底打ち感」による「回復の兆し」も
見られたが、国内外に多発する
不安要素がまん延、拡散。
デフレ感は継続中。
景気底上げ対策も
次々打ち切られ・縮小。
再び回復の兆しは見られたが
東日本大地震で再び状況は悪化。
戻しは見せたが、再び失速の気配。
一連の「景気ウォッチャー調査」に関する記事中でも繰り返し指摘しているが、今回の景気悪化(と復調)は、2001年から2003年にわたった「景気悪化」と「その後の回復・横ばい」パターンを踏襲するように見えていた。基本的に東日本大地震前までは、2003年中盤以降のパターン「雇用指数がやや上側に位置し、その下に企業・家計指数がもみ合いながら展開する」を踏襲する予想に変わりはなかった。

同時にアノマリー(パターン・経験則)的な動向を形成する「見えない力」(いわゆる「神の見えざる手」)を打ち消すほどの「マイナス」の力が働く状況も確認されており、「震災前における」今後の動向は不確定要素が大きい中で「基準値50を天井とする、下値圏(=不景気圏)でのもみ合い」が続くのではないかとする予想だった。とりわけ原油をはじめとする資源価格の高騰がじわじわと市民生活に影響を及ぼしはじめており、(ガソリン価格の上昇は個人ベースでの自動車運転のランニングコストを跳ねあげるだけでなく、輸送費の上昇で物流コストのアップ、そして小売商品の価格値上げにもつながる)、景気回復基調を打ち消すかもしれなかった。

ハリネズミしかしながら今回の東日本大地震に伴う大幅下落からも分かるように、東日本大地震の影響は物理的な面だけでなく、心理的においても大きな衝撃となって現れている。直接的な被害、つまり地震のゆれとそれに伴う津波による物理的な被害だけでなく、原発周り、そしてそれらから生じる間接的な不安要素の重なり(生産不調、流通不安定、現在の国レベルでの施策への不信の加速化、電力供給不安)が、人々の心と行動を「殻に閉じ込める」ような雰囲気を覚えさせる。端的には「マインドの保守化・防衛本能の発起」と表現できる。

先月コメントした「今後の動向次第では、震災による中期的な不景気が発生しする可能性はある」という話も、現実味を帯びてきた。マインドの低迷は継続(むしろ「山師」らの策動で拡大する懸念すら生じている)し、急激に過ぎる円高も輸出関連企業を中心に企業へダメージを与えている。各種データから「余震は完全に過ぎ去った」と断じることが難しい状況も、人々の不安感を駆り立て、「保守化」を後押ししている。

まずは余震の動向を見極め鎮静化を祈ると共に、数理的かつ理知的、理性的で適切な判断と正しい情報開示により、原発周りも含めたエネルギー政策の確立化を果たすのが最優先課題といえる。そしてこれ以上の状況悪化を防ぐ「前向きの」努力を、各自が最大限行う事が求められよう。

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