回復ラインにまで到達…2011年7月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き低下

2011/08/10 12:10

内閣府は2011年8月8日、2011年7月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、現状判断DIは水準値50を超えたものの、先行き判断DIは50を割り込む形となった。現状は上昇基調を継続したが、先行きは前月から転じて低下した結果が出ている。基調判断は「景気の現状は、東日本大震災の影響が残るものの、持ち直している」と、大幅に低い水準を維持していた状況が、回復ラインにまで到達したことを示している(【発表ページ】)。

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数字上の回復はほぼ震災前までに
文中・グラフ中にある調査要件やDI値については今調査の記事一覧【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で説明している。そちらで確認のこと。

2011年7月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比プラス3.0ポイントの52.6。
 →4か月連続の増加。「悪くなっている」「やや悪くなっている」が減り、「変わらない」「やや良くなっている」が増加している。
 →家計では消費マインドの回復、地デジ切り替えに伴うテレビなどの駆け込み需要、猛暑や節電に伴う商品購入がプラスに働き上昇。企業はコスト高の影響はあるが原材料の供給不足遅延が解消されつつあることから上昇、雇用は求人増加で上昇。
・先行き判断DIは先月比でマイナス0.5ポイントの48.5。
 →テレビの駆け込み需要の反動への恐れからマイナス。企業や雇用部門では復興需要への期待からプラス。
主に震災からの時間経過による自粛マインドの低下、地デジ切り替えの駆け込み需要、復興需要への期待から数字は上昇している。原材料や機材の不足、遅延、コスト高など現実的な条件悪化もある程度回復を見せており、少なくとも現状判断は通常値にほぼ等しいところまで復活している。しかし先行き判断で先月書き記した「期待感による所が大きいのが気になる」が現実味を帯びてきたようで、駆け込み需要の反動のほか、小売関係での不透明感の高まりが言及されているのが気になる。

現状は「地震直後よりはマシ」、先行きは現実との直面
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
↑ 景気の現状判断DI

今回発表分も全部門がプラス。雇用関連は先月より勢いの良い動きをしているが、それ以外は押し並べて低い伸び方に留まっている。とはいえ、半分以上の項目で基準値の50を超えているのは望ましい状況。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。主要指数の動向のうち、もっとも下ぶれしやすい雇用関連の指数の下がり方が分かりやすいよう、前回の下げの最下層時点の部分に赤線を追加している。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
↑ 2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

グラフを見ればお分かりのように、2008年後半以降いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに、各指標は直近過去における不景気時代(ITバブル崩壊)の水準を超えて下落。2008年12月前後でようやく下落傾向が落ち着く状態となった。その後は大きく戻しを見せたものの基準値50までには戻らず、それ以降は50を天井とする形で小さな上下変動を見せていた。

しかし今年3月において、東日本大地震の影響を受けて全項目が単月では、リーマンショックを超える勢いで下落する。幸いにもその後の回復ぶりも記録的な上昇カーブを描き、7月分では震災直前の水準にまで戻す形となった。合計値で50を大きく超えたのは2007年夏の金融危機以来のことだが、これは震災による大急落のリバウンドの色合いが強いと解釈した方が、道理は通る。

・2010年に入り、
下落から反転の傾向へ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
確認ずみ。
・もみ合いをこなしながら
回復をうかがう状況だった。
・東日本大地震による震災が
すべてを吹き飛ばし
急降下状態に。
・四か月目の戻し。
心理面では
震災前までの状況に回復。
「前回(2001年-2002年)の景気後退による急落時には、家計や企業、雇用動向DIの下落にずれがあった。それに対し、リーマンショック時の大幅な下落期(2007年後半-2008年中)では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」状態だったことはグラフの形から明確に判断できる。そしてその現象が「世界規模で一斉にフルスピードで景気が悪化した」状況で、互いの数字の下落度合いにズレる余裕すら与えられなかったことを表しているのは、これまでに説明した通り。その後は「水準値50にすら届かない下方圏でのもみ合い」が続いている状態だった。

そして今回の東日本大地震の影響もまた、傾向的にはリーマンショック時のそれに近い。一か月で2001年前後の不景気の最悪期と同じ水準にまで一挙に落ちたのだから、「急降下」よりは「垂直落下」に近い状態といえる。

地震直前の流れとしては、雇用指数とその他の指数の差が大きくなりつつあり、これは2003年後半以降の傾向をなぞっているようでもあった。このパターンを踏襲するとなると、「その時点での」景気がしばらく継続する可能性が高いことを示していた。しかし今回、東日本大地震の影響がすべてのパターン動向の可能性を打ち消してしまう形となった。まさに五里霧中の状態。

先月から続く戻しの動きは、雇用指数の堅調な流れともあわせ、震災前の状態への復帰を思わせる。このままの流れが続けば、各種経験則による不景気への突入懸念も杞憂で終わることになるのだが、節電や震災の傷跡は確実に浸透しているのも否定できず、油断は禁物。

景気の先行き判断DIは先月動向から転じて減少した。

景気の先行き判断DI
↑ 景気の先行き判断DI

雇用指数はそろそろ頭打ちのようで、先月からさらに伸び率を縮小。サービス関連も50を超えているが、伸び率はわずかでしか無い。また、小売関連の下げ率が大きく、これが家計動向関連全体の足をひっぱる形となった。

2000年以降の先行き判断DIの推移
↑ 2000年以降の先行き判断DIの推移(前回不景気時の雇用関連の最下層に位置する赤線は当方で付加)

総合先行きDIはすでに2008年後半の時点で、2001年後半時期(前回の不景気時期)における最下方と同等、あるいは下値に達していた。これはそれだけ先行きに対する不透明感が強かった、前例のない不安感を多くの人が実感していたことを示している(同時に株価同様に「半年-1年先を見通している」という先行指数そのものの意味をも裏付けている)。それ以降は横ばいか少しだけの上げで推移していたが、2008年10月で大きく底値を突き抜けてしまった。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。株安や景気の悪化(「リーマン・ショック」)が、大きな不安感の中にある人々の心境を叩き落とし、家計や企業の先行き心理にマイナス影響を与えた状況が読みとれる。

その後はリーマンショックから立ち直ったものの、不安定な状況を反映するかのように、基準値50を上回ることなく、それを天井とする動きを続けていた。そして今回の震災による大幅な下落はリーマンショックのそれと同じ、「すべての項目が一斉に下げ」たものとなっている。しかも落下角度はリーマンショックをはるかに超えたもの。下落による値の底値は、「リーマンショック」と「2001年の不況期の最下層」との中間程度となった。

そして今月は先月に続き、震災の落ち込みからの回復を見せた形の上昇を一部で見せている。ただし統計値、そしてグラフの右端の動きで確認すれば分かるのだが、雇用関連は引き続き上昇基調にあるものの、家計と企業は横ばいから失速の流れに転じつつある。希望的観測が時間と共に薄れ、リアリティの増した先行きを覚える人が増えている可能性はある。

特需で現状はそれなりに良好
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)(先行き・全国)に関して事例を挙げてみると、

■現状
・梅雨明け以降、気温の上昇や天候の安定で売上は堅調に推移している(スーパー)。
・例年よりも早い梅雨明けや省エネ機運の高まりで、衣料、住関連の省エネ商品が好調に動いている(スーパー)。
・自動車の生産状態が回復しているなか、新型車投入の影響もあり、売上が良くなってきている(乗用車販売店)。
・夏休み期間に入り家族客を中心に間際であるが予約が入っている(観光型旅館)。
・東日本大震災後の自粛ムードも落ち着き、建材入荷も予定が立つようになるとともに、住宅版エコポイント制度終了による駆け込みリフォーム工事で、消費者の動きを感じられるようになってきている(設計事務所)。
・季節商材の動きが活発になってきており、消費マインドが少しずつ上昇してきている(商店街)。
・アナログ放送の終了に伴い、駆け込み需要で小型テレビ、DVDレコーダー、地上デジタル放送チューナなどの売上が前年を大きく上回った(家電量販店)。
・放射性物質の汚染による被害が当県にも広がり、肉類や野菜を中心に地元食材を敬遠する動きや単価の落ち込みが出始めている(商店街)。

■先行き
・震災復興が軌道に乗る秋口には消費マインドが更に良くなり、活気を取り戻す(百貨店)。
・台風による水害のほか、節電、食品の放射能汚染問題など、消費を鈍らせる要素が多過ぎるため、今後も厳しい状況が続く(百貨店)。
・福島第一原子力発電所事故の風評被害により、県外客が観光目的で訪れる状態に戻るにはまだ時間がかかる(観光型ホテル)。
・来客数は少しずつ回復している。予約に関しては昨年並みか少ない状況なので、先行きは不明である(高級レストラン)。
・震災後の特需や節電関連等で一部商材には好影響もあったが、今秋についてはそれらにあたるものは特になく、節約意識の向上とともに消費意識は下がる(スーパー)。
・テレビ放送の完全デジタル移行により、年末までは駆け込み需要の反動で大幅な売上減少が懸念される(家電量販店)。
などとなっている。冒頭で触れたように「現状」は駆け込み需要や節電・猛暑対策などにわかに生じた特需に後押しされる形での、経済の盛り上がりが見て取れる。一方で「先行き」は現状を冷静に認識した上で、特需の反発やマインドの失速、経済喚起に絡み国レベルでの動きがないことへの懸念がうかがえる。

また先月も強調した点であるが、全般的にインフラという観点では流通に加え、昨月よりはやや大人しくなったものの、電力に対して神経質になっているのが分かる。これは生産面に加え、消費者のマインドを大きく下げる要因であること、さらに自社自身は影響が無くとも原材料を生産する過程のどこかで電力不足による影響を受けると、周り回って自分まで影響を受けてしまうのが再認識できる。



金融危機による市況悪化で
景気感は一挙に急降下。
耐久消費財の値上げや雇用喪失など
実体経済への傷も深い。
海外の不景気化も影響し、
外需中心の企業も大きな痛手。
内需中心の企業にも波及する。
「底打ち感」による「回復の兆し」も
見られたが、国内外に多発する
不安要素がまん延、拡散。
デフレ感は継続中。
景気底上げ対策も
次々打ち切られ・縮小。
再び回復の兆しは見られたが
東日本大地震で再び状況は悪化。
戻しは見せたがその後は不透明
一連の「景気ウォッチャー調査」に関する記事中でも繰り返し指摘しているが、今回の景気悪化(と復調)は、2001年から2003年にわたった「景気悪化」と「その後の回復・横ばい」パターンを踏襲するように見えていた。基本的に東日本大地震前までは、2003年中盤以降のパターン「雇用指数がやや上側に位置し、その下に企業・家計指数がもみ合いながら展開する」を踏襲する予想に変わりはなかった。

同時にアノマリー(パターン・経験則)的な動向を形成する「見えない力」(いわゆる「神の見えざる手」)を打ち消すほどの「マイナス」の力が働く状況も確認されており、「震災前における」今後の動向は不確定要素が大きい中で「基準値50を天井とする、下値圏(=不景気圏)でのもみ合い」が続くのではないかとする予想だった。とりわけ原油をはじめとする資源価格の高騰がじわじわと市民生活に影響を及ぼしはじめており、(ガソリン価格の上昇は個人ベースでの自動車運転のランニングコストを跳ねあげるだけでなく、輸送費の上昇で物流コストのアップ、そして小売商品の価格値上げにもつながる)、景気回復基調を打ち消す可能性すらあった。

しかしながら今回の東日本大地震に伴う大幅下落からも分かるように、東日本大地震の影響は物理的な面だけでなく、心理的においても大きな衝撃となって現れている。直接的な被害、つまり地震のゆれとそれに伴う津波による物理的な被害だけでなく、原発周り、そしてそれらから生じている間接的な不安要素の重なり(生産不調、流通不安定、現在の国レベルでの施策への不信の加速化、電力供給不安)が、人々の心と行動を「殻に閉じ込める」ような雰囲気を覚えさせる。一言で表現すれば「マインドの保守化」が適切か。

今回は「現状」と「先行き」は別個の動きを見せたものの、「不景気」特有の傾向「雇用指数が他の指数を大きく下回る」気配からはすでに脱しており、「現状」「先行き」双方で「雇用指数」と「他の指数」とのかい離が大きくなっているのが幸い。とはいえこれも上記で触れているように、今後の動向次第では、震災による中期的な不景気が発生しする可能性はある。例えば帝国データバンクでは7月8日付で【7月の震災関連倒産は49件、集計開始後初の減少- 累計258件判明、依然として阪神大震災時の2.5倍ペース -】というレポートを出しており、主要被災地の状況が世間一般に報じられている状態とはケタ違いに困難な状態であることが推し量れるものとなっている)。

また地震・震災とは別だが、急激に過ぎる円高も輸出関連企業を中心に企業へダメージを与えている。同じく帝国データバンクからは8月8日付で【2011年の円高関連倒産、8月7日時点で28社判明- 関連倒産が多発した昨年を上回る発生ペース -】という円高関連の倒産周りのニュースが呈されている。

まずは余震の動向を見極め鎮静化を祈ると共に、数理的かつ理知的、理性的で適切な判断と正しい情報開示により、原発周りも含めたエネルギー政策の確立化を果たし、これ以上の状況悪化を防ぐ「前向きの」努力を、各自が最大限行う事が求められよう。

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