震災の反動はじまるか…2011年5月景気ウォッチャー調査は現状・先行き共に上昇

2011/06/09 12:10

内閣府は2011年6月8日、2011年5月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、現状判断DI・先行き判断DIは共に水準の50を割り込んでいる状況には変化はないものの、現状・先行き共に前月より上昇した。これは東日本大地震とそれに伴う各種震災が原因で下げた先々月から、反動や自粛マインドの弱まりによって上昇した先月4月次と、同じ要因による動きと考えられる。基調判断は「景気の現状は、東日本大震災の影響により厳しい状況が続いているものの、上向きの動きがみられる」と大幅に低い水準を維持している状況が、地震の影響であることを言及している(【発表ページ】)。

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回復への歩み
文中・グラフ中にある調査要件やDI値については今調査の記事一覧【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で説明している。そちらで確認のこと。

2011年5月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比プラス7.7ポイントの36.0。
 →2か月連続の増加。「悪くなっている」が大幅に減り、「変わらない」「やや良くなっている」が増加している。
 →家計においては消費マインドの低迷で売上低下、一部自粛ムード減退で上昇。企業は震災による各種影響はまだ多く生産活動に支障をきたしているものの、復興需要や代替生産のための受注増などで上昇。雇用は製造業などで一部回復の動きがあり、上昇。
・先行き判断DIは先月比でプラス6.5ポイントの44.9。
 →復旧需要への期待、消費マインドへの回復期待で上昇。
主に震災からの時間経過による自粛マインドの低下、復興需要への期待から数字は上昇している。一方で原材料や機材の不足、遅延、コスト高など現実的な条件悪化が確認されており、プラス面は期待感による所が大きく、マイナス面は現実として直面している状況が多いのが気になるところ。

雇用指数の気になる動き
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
↑ 景気の現状判断DI

今回発表分では全部門がプラス。雇用部門の上げ方の弱さがやや気になる。元々震災前は「雇用部門が一段高」という形だったのだか、震災で大きく値を落としたあと、他部門と比べて戻し方が鈍く、今回でほぼ横並びとなってしまった。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。主要指数の動向のうち、もっとも下ぶれしやすい雇用関連の指数の下がり方が分かりやすいよう、前回の下げの最下層時点の部分に赤線を追加している。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
↑ 2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

グラフを見ればお分かりのように、2008年後半以降いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに、各指標は直近過去における不景気時代(ITバブル崩壊)の水準を超えて下落。2008年12月前後でようやく下落傾向が落ち着く状態となった。その後は大きく戻しを見せたものの基準値50までには戻らず、それ以降は50を天井とする形で小さな上下変動を見せていた。

しかし今年3月において、東日本大地震の影響を受けて全項目が単月ではリーマンショックを超える勢いで下落。今月も先月に続き多少戻したものの、直前の回復基調の状態に戻るにはほど遠い。

・2010年に入り、
下落から反転の傾向へ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
確認ずみ。
・もみ合いをこなしながら
回復をうかがう状況だった。
・東日本大地震による震災が
すべてを吹き飛ばし
急降下状態に。
・二か月目の戻し。
震災前までの戻しには至らず。
「前回(2001年-2002年)の景気後退による急落時には、家計や企業、雇用動向DIの下落にずれがあった。それに対し、リーマンショック時の大幅な下落期(2007年後半-2008年中)では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」状態だったことはグラフの形から明確に判断できる。そしてその現象が「世界規模で一斉にフルスピードで景気が悪化した」状況で、互いの数字の下落度合いにズレる余裕すら与えられなかったことを表しているのは、これまでに説明した通り。その後は「水準値50にすら届かない下方圏でのもみ合い」が続いている状態だった。

そして今回の東日本大地震の影響もまた、傾向的にはリーマンショック時のそれに近い。一か月で2001年前後の不景気の最悪期と同じ水準にまで一挙に落ちたのだから、「急降下」よりは「垂直落下」に近い状態といえる。

地震直前の流れとしては、雇用指数とその他の指数の差が大きくなりつつあり、これは2003年後半以降の傾向をなぞっているようでもあった。このパターンを踏襲するとなると、「その時点での」景気がしばらく継続する可能性が高いことを示していた。しかし今回、東日本大地震の影響がすべてのパターン動向の可能性を打ち消してしまう形となってしまった。まさに五里霧中の状態といえる。

さらに可能性として、雇用指数の値の戻しが異様に小さく、5月分で他の指数とほぼ同じ水準にまで落ち込んでいる。他の指数より雇用指数が大きく下回るのは全体的な水準が低迷=不景気の時の共通事項であり、今回の震災が2001年後半からの不況、2007年夏以降の金融不況同様の「新たな」不況のトリガーとなる可能性を示唆している。

景気の先行き判断DIも上昇を見せた。

景気の先行き判断DI
↑ 景気の先行き判断DI

先月は一歩引いた感を見せた雇用指数が、今回は唯一2ケタの伸びを記録しており反動と雇用情勢の改善への期待が見え隠れしている。一方で飲食関連の値は低く、前回月比で唯一のマイナスそして唯一の30台となってしまう。

2000年以降の先行き判断DIの推移
↑ 2000年以降の先行き判断DIの推移(前回不景気時の雇用関連の最下層に位置する赤線は当方で付加)

総合先行きDIはすでに2008年後半の時点で、2001年後半時期(前回の不景気時期)における最下方と同等、あるいは下値に達していた。これはそれだけ先行きに対する不透明感が強かった、前例のない不安感を多くの人が実感していたことを示している(同時に株価同様に「半年-1年先を見通している」という先行指数そのものの意味をも裏付けている)。それ以降は横ばいか少しだけの上げで推移していたが、2008年10月で大きく底値を突き抜けてしまった。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。株安や景気の悪化(「リーマン・ショック」)が、大きな不安感の中にある人々の心境を叩き落とし、家計や企業の先行き心理にマイナス影響を与えた状況が読みとれる。

その後はリーマンショックから立ち直ったものの、不安定な状況を反映するかのように、基準値50を上回ることなく、それを天井とする動きを続けていた。そして今回の震災による大幅な下落はリーマンショックのそれと同じ、「すべての項目が一斉に下げ」たものとなっている。しかも落下角度はリーマンショックどころの話では無い。下落による値の低さは、リーマンショックと2001年の不況期の最下層との中間程度となった。

そして今月は先月に続き上昇。特に先月やや戻しが遅れ気味だった雇用指数が大きく伸び、早くも50に到達せんばかりの勢い。「現状」の雇用指数とは大きな違いで、「不景気の際には雇用指数が他の指数より大きく下振れする」という傾向に当てはまることは無くやや安心ができる。しかし上でも触れているように、「現状は現在確認できていること、先行きはこれからの期待に寄るところが大きい」こともあり、希望的観測が多分に含まれていることに留意しておかねばなるまい。

地震の影響
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)(先行き・全国)に関して事例を挙げてみると、

■現状
・東日本大震災の影響による一時的な買い控えも落ち着き客の消費動向も回復しつつある。購入客数も前年を上回っており売上も前年を上回る(百貨店)。
・省エネ傾向が強く、扇風機が早めに強く動いている。エアコンもより省エネクラスの動きが良い(家電量販店)。
・東日本大震災の影響による自粛ムードが薄れてきたものの、購買意欲はそれほど戻っていない(一般小売店[精肉])。
・東日本大震災の影響による出張・旅行の自粛ムードはやや落ち着いてきたが、まだまだ客の申込状況は悪い。個人・団体旅行ともに前年を割り込んでいる(旅行代理店)。
・東日本大震災の影響で大手自動車メーカーの工場が50%稼働のため、今新車を注文しても納期の目途が立たず、客もなかなか注文がしづらい(乗用車販売店)。
・5月2-5日は地元客を中心に好調に推移したが、連休明け後は徐々に前月の水準にまで戻っている(一般レストラン)。
・建築資材の納期遅れや供給不足の情報がユーザーに伝わったことで、今建築することに対する懸念が多くなり、契約が遅れたり滞ったりしている(住宅販売会社)。

■先行き
・東日本大震災以降の商品不足や流通の停滞も解消されており、客の購買意欲も向上していることから、これからは徐々に良くなる(スーパー)。
・夏の節電のための避暑地への旅行や、大企業の休日分散化も観光事業にとっては好都合であり、消費活動が徐々に活発化する(観光型ホテル)。
・7月のアナログ停波によるテレビ買換えの最後の山が来る。また、節電対策で省エネ家電への買換え需要がおう盛で、特にエアコン、冷蔵庫、LED照明の売上増大が期待できる(家電量販店)。
・福島第一原子力発電所の事故が依然として収束しない状況で、先の見通しが不透明な状態は続く(乗用車販売店)。
・今後、夏場に向けて計画停電が実施されれば、営業時間の短縮や客の買物行動にかなりブレーキがかかってくることが予想される(百貨店)
などとなっている。プラス面は主にLEDや省エネ型家電をはじめとした節電特需、夏の節電に向けた前倒し・見込み生産による需要増などを起因とし、短期的な回復ぶりが見えてくる。一方でマイナス面では材料資財をはじめとした生産面での混乱がいまだに続いており、商品生産に支障が生じていることや、先行き不透明感による足踏み、足かせなどの状況が確認できる。

また先月も強調した点であるが、全般的にインフラという観点では流通に加え、電力に対して神経質になっているのが分かる。これは生産面に加え、消費者のマインドを大きく下げる要因であること、さらに自社自身は影響が無くとも原材料を生産する過程のどこかで電力不足による影響を受けると、周り回って自分まで影響を受けてしまう(特に自動車産業にその傾向が強い)のが再認識できる。



金融危機による市況悪化で
景気感は一挙に急降下。
耐久消費財の値上げや雇用喪失など
実体経済への傷も深い。
海外の不景気化も影響し、
外需中心の企業も大きな痛手。
内需中心の企業にも波及する。
「底打ち感」による「回復の兆し」も
見られたが、国内外に多発する
不安要素がまん延、拡散。
デフレ感は継続中。
景気底上げ対策も
次々打ち切られ・縮小。
再び回復の兆しは見られたが
東日本大地震で再び状況は悪化。
戻しを見せる気配はあるが……
一連の「景気ウォッチャー調査」に関する記事中でも繰り返し指摘しているが、今回の景気悪化(と復調)は、2001年から2003年にわたった「景気悪化」と「その後の回復・横ばい」パターンを踏襲するように見えていた。基本的に東日本大地震前までは、2003年中盤以降のパターン「雇用指数がやや上側に位置し、その下に企業・家計指数がもみ合いながら展開する」を踏襲する予想に変わりはなかった。

同時にアノマリー(パターン・経験則)的な動向を形成する「見えない力」(いわゆる「神の見えざる手」)を打ち消すほどの「マイナス」の力が働く状況も確認されており、「震災前における」今後の動向は不確定要素が大きい中で「基準値50を天井とするもみ合い」が続くのではないかとする予想だった。とりわけ原油をはじめとする資源価格の高騰がじわじわと市民生活に影響を及ぼしはじめており、(ガソリン価格の上昇は個人ベースでの自動車運転のランニングコストを跳ねあげるだけでなく、輸送費の上昇で物流コストのアップ、そして小売商品の価格値上げにもつながる)、景気回復基調を打ち消すほどのものになりうる可能性すら秘めていた。

しかしながら今回の東日本大地震に伴う大幅下落からも分かるように、東日本大地震の影響は物理的な面だけでなく、心理的においても大きな衝撃となって現れている。直接的な被害、つまり地震のゆれとそれに伴う津波による物理的な被害だけでなく、原発周り、そしてそれらから生じている様々な、間接的な不安要素の重なり(生産不調、流通不安定、現在の政治体制への不信の加速化、電力不安)が、人々の心と行動を「殻に閉じ込める」ような雰囲気を覚えさせる。

さらに今回「先行き」では大きく上昇したものの、「現状」で雇用関連指数の動きが鈍く、いわゆる「不景気」特有の傾向「雇用指数が他の指数を大きく下回る」気配を見せているところが極めて気になる。今後の動向次第では、震災による中期的な不景気が発生しうる可能性は否定できない。

まずは余震の動向を見極め鎮静化を祈ると共に、適切な判断と正しい情報開示により原発周りの状況を安定化し、これ以上の悪化を防ぐ「前向きの」努力を、各自が最大限行う事が求められよう。

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