震災影響続く…2011年4月景気ウォッチャー調査は現状わずかに上昇・先行き大幅上昇

2011/05/12 19:30

内閣府は2011年5月12日、2011年4月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、現状判断DI・先行き判断DIは共に水準の50を割り込んでいる状況には変化はなく、現状はわずかに上昇、先行きは大幅に上昇した。これは東日本大地震とそれに伴う各種震災が原因で下げた先月と比べ、現状は自粛マインドが弱まったこと、先行きは復興需要などへの期待感による動きとされる。基調判断は「景気の現状は、東日本大震災の影響により厳しい状況が続いている」と大幅に低い水準を維持している状況が、地震の影響であることを言及している(【発表ページ】)。

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「希望的観測」
文中・グラフ中にある調査要件やDI値については今調査の記事一覧【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で説明している。そちらで確認のこと。

2011年4月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比プラス0.6ポイントの28.3。
 →2か月ぶりの増加。平均値の上では改善しているが、「良くなっている」域が全般に減っており、「やや悪くなっている」に集約される動き。
 →家計においては商品不足や消費マインドの低迷で売上も低下、一部自粛ムード減退で上昇。企業は復興需要や代替生産への期待・現実の受注があったが、原材料や中間部品の遅延、価格の高騰などで低下。雇用も先行き不透明感で企業の一部に採用や求人の見直し、延期が見られることから低下。
・先行き判断DIは先月比でプラス11.8ポイントの38.4。
 →復旧需要への期待、消費マインドへの期待で上昇。
現行指数は相変わらず厳しく(数字は上昇しているが回答分散の様子としてはむしろ悪化)、先行きは「希望的観測」ともいえる期待感からの上昇の動きといえる。

形が見えているからこその横ばい、形が見えないからこその上昇
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
↑ 景気の現状判断DI

前回発表月分では全部門が2ケタ代のマイナスという、異様な動きを見せていたが、今回は通常レベルでの上下となった。家計動向の中では住宅のマイナス継続が目立つ。余震が続くことで不動産周りの不安、地価下落がマインドに影響を与えている可能性はある。雇用も先月に続きマイナスだが、他の値と比べて元々高めだったこともあり、下げてもなお全体としては「相対的には」高め。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。主要指数の動向のうち、もっとも下ぶれしやすい雇用関連の指数の下がり方が分かりやすいよう、前回の下げの最下層時点の部分に赤線を追加している。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
↑ 2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

グラフを見ればお分かりのように、2008年後半以降いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに、各指標は直近過去における不景気時代(ITバブル崩壊)の水準を超えて下落。2008年12月前後でようやく下落傾向が落ち着く状態となった。その後は大きく戻しを見せたものの基準値50までには戻らず、それ以降は50を天井とする形で小さな上下変動を見せていた。

しかし先月において、東日本大地震の影響を受けて全項目が急降下状態で下落。下落後の値そのものこそリーマンショックや2001年時の不況には及ばないものの、一か月間での下落率はそれらをも凌駕する急降下なのが分かる。今月は多少戻したものの、誤差の範囲でしか無い。

・2010年に入り、
下落から反転の傾向へ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
確認ずみ。
・もみ合いをこなしながら
回復をうかがう状況だった。
・東日本大地震による震災が
すべてを吹き飛ばし
急降下状態に。
・今月は多少戻すも誤差範囲。
「前回(2001年-2002年)の景気後退による急落時には、家計や企業、雇用動向DIの下落にずれがあった。それに対し、リーマンショック時の大幅な下落期(2007年後半-2008年中)では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」状態だったことはグラフの形から明確に判断できる。そしてその現象が「世界規模で一斉にフルスピードで景気が悪化した」状況で、互いの数字の下落度合いにズレる余裕すら与えられなかったことを表しているのは、これまでに説明した通り。連鎖反応的に襲い掛かった数々のマイナス要素が、多種多様な方面においていちどきに、連鎖的に悪影響を与えた状況が数字、そしてグラフにも表れている。その後の様子は直前で説明しているように、「水準値50にすら届かない下方圏でのもみ合い」が続いている状態だった。

そして今回の東日本大地震の影響もまた、傾向的にはリーマンショック時のそれに近い。一か月で2001年前後の不景気の最悪期にまで一挙に落ちたのだから、「急降下」よりは「垂直落下」に近い状態といえる。

地震直前の流れとしては、雇用指数とその他の指数の差が大きくなりつつあり、これは2003年後半以降の傾向をなぞっているようでもあった。このパターンを踏襲するとなると、「その時点での」景気がしばらく継続する可能性が高いことを示していた。しかし今回、東日本大地震の影響がすべてのパターン動向の可能性を打ち消してしまう形となってしまった。まさに五里霧中の状態といえる。

景気の先行き判断DIは大きく上昇を見せた。

景気の先行き判断DI
↑ 景気の先行き判断DI

多くの項目が2ケタ台の上昇なのは復興需要への期待感によるところが大きい。ただしそのような状況下でも、雇用関連は一歩引いた値が確認できる。

2000年以降の先行き判断DIの推移
↑ 2000年以降の先行き判断DIの推移(前回不景気時の雇用関連の最下層に位置する赤線は当方で付加)

総合先行きDIはすでに2008年後半の時点で、2001年後半時期(前回の不景気時期)における最下方と同等、あるいは下値に達していた。これはそれだけ先行きに対する不透明感が強かった、前例のない不安感を多くの人が実感していたことを示している(同時に株価同様に「半年-1年先を見通している」という先行指数そのものの意味をも裏付けている)。それ以降は横ばいか少しだけの上げで推移していたが、2008年10月で大きく底値を突き抜けてしまった。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。株安や景気の悪化(「リーマン・ショック」)が、大きな不安感の中にある人々の心境を叩き落とし、家計や企業の先行き心理にマイナス影響を与えた状況が読みとれる。

その後はリーマンショックから立ち直ったものの、不安定な状況を反映するかのように、基準値50を上回ることなく、それを天井とする動きを続けていた。そして今回の震災による大幅な下落はリーマンショックのそれと同じ、「すべての項目が一斉に下げ」たものとなっている。しかも落下角度はリーマンショックどころの話では無い。下落による値の低さは、リーマンショックと2001年の不況期の最下層との中間程度となった。

そして今月は上昇しており、最悪の事態は何とか回避できたように見える。しかしこれは行く先の形が具象化していない、見えていないからこその希望的観測が強く、その結果による動きであることが、次項目の具体的コメントから見えてくる。

地震の影響
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)(先行き・全国)に関して事例を挙げてみると、

■現状
・東日本大震災の影響も一回りし、普段の購買動向は落ち着きを取り戻しつある。計画停電がなくなったと宣言されたことが良い方向に導いている(商店街)
・今月前半は東日本大震災の影響で買い控えが目立つなど苦戦したが、中盤以降は買い控えの反動などもあり、好調に推移している(百貨店)。
・3月の東日本大震災等もあって、自粛ムードが広がっており、特に3月から4月にかけての客の動きは非常に悪く、購買意欲が落ちている(商店街)。
・商品の入荷が不安定であることに加えて、自粛ムードもみられるようになっており、無駄な物は買わないという客の様子が感じられる(スーパー)。
・まだ自粛ムードが強く、東日本大震災前の水準には回復できていない(高級レストラン)
・4月に入り気温も高くなったが、春物の売行きはまずまずである(一般小売店[衣料・雑貨])。
・家電エコポイント制度の終了後、来客数はますます減少してきており、平均単価も低下傾向にある(家電量販店)。
・東日本大震災後、建材や住宅器材などの調達が難しくなり、工事が進まなくなったり、今後の見通しが立たなくなったりしている状況である(設計事務所)
・東日本大震災の影響で新車の供給がストップしており、売上が上がらない状況にある。受注も納期が未定のため、客との商談も思うように進まない(乗用車販売店)。
・売上をけん引してきたたばこが、東日本大震災の影響で納品されず、売上は急減している。来客数も減っている(コンビニ)。

■先行き
・商品物流は正常化に向かい、客数も回復していくと予想される(コンビニ)。
・買い控えも緩やかになり、売上は少しずつ伸びていく(コンビニ)。
・アナログ放送終了までは薄型テレビの駆け込み需要が発生することで、若干販売量が増加して推移する(家電量販店)。
・東日本大震災からの復興や福島第一原子力発電所問題の状況がどうなるかで、かなり違ってくる(百貨店)。
・東日本大震災後、ゴールデンウィークは個人客を中心に宿泊者数は例年並みに戻っているが、団体客は予約が少なく夏休みまでは厳しい状況が続く(観光型旅館)
・夏の計画停電が実施されると、売上に大きく影響するため、不安要因である(その他専門店[ドラッグストア])。
・客のマインドの低下、資材の高騰などにより、今後は非常に厳しい状況となる(住宅販売会社)。
などとなっている。直接の地震被害によるものはもちろんだが、資材や商品の調達困難による間接的なビジネスへの悪影響など、流通が未だに混乱状態にあるようすがうかがえる。また「先行き」だけに限って見ると、ポジティブな意見の多くは前述したように観測感が強く、強い推測までには至っていないのが気になるところ。また全般的にインフラという観点では流通に加え、電力に対して神経質になっているのが分かる。これは生産面に加え、消費者のマインドを大きく下げる要因であることが、肌身に体感しているからだろう。



金融危機による市況悪化で
景気感は一挙に急降下。
耐久消費財の値上げや雇用喪失など
実体経済への傷も深い。
海外の不景気化も影響し、
外需中心の企業も大きな痛手。
内需中心の企業にも波及する。
「底打ち感」による「回復の兆し」も
見られたが、国内外に多発する
不安要素がまん延、拡散。
デフレ感は継続中。
景気底上げ対策も
次々打ち切られ・縮小。
再び回復の兆しは見られたが
東日本大地震で再び状況は悪化。
「霧の中での先行き期待」か。
一連の「景気ウォッチャー調査」に関する記事中でも繰り返し指摘しているが、今回の景気悪化(と復調)は、2001年から2003年にわたった「景気悪化」と「その後の回復・横ばい」パターンを踏襲するように見えていた。基本的に東日本大地震前までは、2003年中盤以降のパターン「雇用指数がやや上側に位置し、その下に企業・家計指数がもみ合いながら展開する」を踏襲する予想に変わりはなかった。

同時にアノマリー(パターン・経験則)的な動向を形成する「見えない力」(いわゆる「神の見えざる手」)を打ち消すほどの「マイナス」の力が働く状況も確認されており、今後の動向は不確定要素が大きい中で「基準値50を天井とするもみ合い」が続くのではないかとする予想だった。とりわけ原油をはじめとする資源価格の高騰がじわじわと市民生活に影響を及ぼしはじめており、(ガソリン価格の上昇は個人ベースでの自動車運転のランニングコストを跳ねあげるだけでなく、輸送費の上昇で物流コストのアップ、そして小売商品の価格値上げにもつながる)、景気回復基調を打ち消すほどのものになりうる可能性すら秘めていた。

しかしながら今回の東日本大地震に伴う大幅下落からも分かるように、東日本大地震の影響は物理的な面だけでなく、心理的においても大きな衝撃となって現れている。直接的な被害、つまり地震のゆれとそれに伴う津波による物理的な被害だけでなく、原発周り、そしてそれらから生じている様々な、間接的な不安要素の重なり(生産不調、流通不安定、現在の政治体制への不信の加速化、電力不安)が、人々の心と行動を「殻に閉じ込める」ような雰囲気を覚えさせる。

まずは余震の動向を見極め鎮静化を祈ると共に、原発周りの状況を安定化してこれ以上の悪化を防ぐ「前向きの」努力を各自が最大限行う事が求められよう。

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