「景気は、東日本大震災の影響で急激に厳しい状況になっている」…2011年3月景気ウォッチャー調査は現状・先行き共に大幅下落

2011/04/09 07:45

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内閣府は2011年4月8日、2011年3月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、現状判断DI・先行き判断DIは共に水準の50を割り込んでいる状況には変化はなく、現状・先行き共に大幅に下落した。これは東日本大地震とそれに伴う各種震災が原因で、基調判断も「景気は、東日本大震災の影響で急激に厳しい状況になっている」と大幅下落が地震の影響であることを言及している(【発表ページ】)。


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「震災がすべてを吹き飛ばした形だ」
文中・グラフ中にある調査要件やDI値については今調査の記事一覧【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で説明している。そちらで確認のこと。

なお今回は東日本大地震の影響で東北地方における回答率が減少し、データの連続性に問題が生じる懸念もあったが、回答率の減少は例年比で1ポイント内外のレベルに留まっている(91.4%、例年は92-96%程度)。仮に非回答者がすべて厳しい判断を下していたとしても、DI値の変化は東北地方で0.7-0.8、全国値で0.1程度に留まり、大勢に影響は無いと判断している。

2011年3月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比マイナス20.7ポイントの27.7。
 →2か月ぶりの減少。「変わらない」「やや良くなっている」が減少、「悪くなっている」「やや悪くなっている」が増加。
 →家計においては防災周りの商品にポジティブさがあったものの、物流停滞や消費マインドの冷え込み、計画停電による影響などを受けて大幅下落。企業は復興需要や代替生産への期待があったが、物理的損失や取引先の被災、原材料や機材の供給不足、入荷遅延、燃料の高騰、計画停電の影響を受けて大幅に低下。雇用も先行き不透明感で企業の一部に採用や求人の見直し、延期が見られることから大幅低下。
・先行き判断DIは先月比でマイナス20.6ポイントの26.6。
 →復旧需要への期待があるが、経済の先行き、計画停電の影響、原発事故による影響の不透明感、雇用調整の動きなどで、全項目で大幅下落。
原材料価格の高騰が継続する中、リバウンド的な動きも含めた小売流域での回復の兆しも見られていたのだが、東日本大地震とその関連震災がすべてを吹き飛ばした形だ。

前代未聞
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
↑ 景気の現状判断DI

今回発表月分では全部門が2ケタ代のマイナスという、異様な(計測・公開データ中では最急降下な)動きを見せている。特に家計動向の下げ幅が大きいのは、復旧需要が家計にはあまり関係無いからと考えられる。しばらく50以上を維持していた雇用関係も、今月はあえなく50を割り込む形に。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。主要指数の動向のうち、もっとも下ぶれしやすい雇用関連の指数の下がり方が分かりやすいよう、前回の下げの最下層時点の部分に赤線を追加している。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
↑ 2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

グラフを見ればお分かりのように、2008年後半以降いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに、各指標は直近過去における不景気時代(ITバブル崩壊)の水準を超えて下落。2008年12月前後で下落傾向が落ち着く状態となった。しかし2009年1月には横ばいに移行。その後多少の上昇を見せ、2月以降はもみ合いながら上昇が続いていた。

昨今では本来の値の中間にあたる「50.0」を天井として、その下側の領域でもみ合いを続けているようだった。しかし今月は東日本大地震の影響ですべての項目が急降下状態で下落。下落後のあたいそのものこそリーマンショックや2001年時の不況には及ばないものの、一か月間での下落率はそれらをも凌駕する勢いであるのが分かる。

・2010年に入り、
下落から反転の傾向へ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
確認ずみ。
・もみ合いをこなしながら
回復をうかがう状況だった。
・東日本大地震による震災が
すべてを吹き飛ばし
急降下状態に
「前回(2001年-2002年)の景気後退による急落時には、家計や企業、雇用動向DIの下落にずれがあった。それに対し、今回の大幅な下落期(2007年後半-2008年中)では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」状態だったことはグラフの形から明確に判断できる。そしてその現象が「世界規模で一斉にフルスピードで景気が悪化した」状況で、互いの数字の下落度合いにズレる余裕すら与えられなかったことを表しているのは、これまでに説明した通り。連鎖反応的に襲い掛かった数々のマイナス要素が、多種多様な方面においていちどきに、連鎖的に悪影響を与えた状況が数字、そしてグラフにも表れている。その後の様子は直前で説明しているように、「水準値50にすら届かない下方圏でのもみ合い」が続いている状態だった。

また、雇用指数とその他の指数の差が大きくなる様子は、2003年後半以降の傾向をなぞっているようでもある。このパターンを踏襲するとなると、「現時点の」景気がしばらく継続する可能性が低くないことを示していた。しかし今回、地震の影響がすべてのパターンによる動きの可能性を打ち消してしまう形となってしまった。

景気の先行き判断DIも、現状DIと変わらない勢いでの下げ方を見せている。

景気の先行き判断DI
↑ 景気の先行き判断DI

いずれの項目も2ケタ台の下落であることや、多少なりとも復旧需要が見込める企業と比べ、恩恵を受けることが少ないであろう家計の下げ方が大きい動きも「現状判断DI」と変わりない。

2000年以降の先行き判断DIの推移
↑ 2000年以降の先行き判断DIの推移(前回不景気時の雇用関連の最下層に位置する赤線は当方で付加)

総合先行きDIはすでに2008年後半の時点で、2001年後半時期(前回の不景気時期)における最下方と同等、あるいは下値に達していた。これはそれだけ先行きに対する不透明感が強かった、前例のない不安感を多くの人が実感していたことを示している(同時に株価同様に「半年-1年先を見通している」という先行指数そのものの意味をも裏付けている)。それ以降は横ばいか少しだけの上げで推移していたが、2008年10月で大きく底値を突き抜けてしまった。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。株安や景気の悪化(「リーマン・ショック」)が、大きな不安感の中にある人々の心境を叩き落とし、家計や企業の先行き心理にマイナス影響を与えた状況が読みとれる。

そして今回の震災による大幅な下落は、それに類する動きを見せている。多方面での状況悪化が懸念され、それが人々の不安をかきたてる要素になっているのが分かる。また、下落値そのものも前回の不景気領域までほぼ達しており、リーマンショックのそれに近いところまで来ている。

地震の影響
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)(先行き・全国)に関して事例を挙げてみると、

■現状
・東日本大震災の影響で、米、カップめん、水、パン、乾電池などの動向は高いが、衣料品は地震以降客の購買意欲が低下している。特にアパレル、貴金属、旅行関係は深刻な状況で、当分の間厳しい状況が続きそうである(スーパー)。
・東日本大震災の影響で、商品の入荷が極端に少ない。北関東に工場、物流拠点があるメーカーが多く、また近隣の工場も計画停電の影響で生産量が半分以下になっている所が多いためである(スーパー)。
・東日本大震災をきっかけに、来客数の激減や買い控えなど、消費マインドが大きく低下している(百貨店)。
・計画停電等の影響により、営業時間を短くせざるを得ない(百貨店)。
・東日本大震災後の計画停電で、休業や営業短縮を余儀なくされており、客数は約30%強落ち込んでいる(その他小売[ショッピングセンター])。
・被災地はもちろんだが、首都圏からの需要及び首都圏への需要、直接の地震の影響のない地区での需要までもが自粛ムードとなってしまった(旅行代理店)。
・東日本大震災と原子力発電所事故の影響により、外国人観光客の予約が3か月先まですべてキャンセルとなった(観光型ホテル)。
・東日本大震災による被害が甚大で従業員等の人的被害や店舗建物の物理的被害が大きい。商品供給も滞っており、通常の営業ができる状態にはない(コンビニ)。

■先行き
・東日本大震災による消費マインドの低下は当分続く。また、計画停電による営業時間の縮小も消費低下に拍車を掛けている(百貨店)。
・物流の回復は見通しが立たず、厳しい状況が続くことが予想される(スーパー)。
・春需要は期待できるが、4月後半以降は家電エコポイント制度終了前の駆け込み需要の反動が出てくる(家電量販店)。
・地震、津波、さらには福島第一原子力発電所の事故の影響で、先行き不安による買い控えが更に深刻になることが懸念される(スーパー)
などとなっている。先月までは一部で回復の兆しを見せる、あるいは底打ち感的な動きを見せていたが、地震とそれに伴う津波、原発事故、計画停電などが消費者や企業のマインドを氷点下に押し下げ、実態的にも相当の影響が出ているのが分かる。ちなみにコメントのうち現状判断では回答者の57.2%、先行きでは49.9%の人が東日本大地震とそれに関連する動きについて言及している。



金融危機による市況悪化で
景気感は一挙に急降下。
耐久消費財の値上げや雇用喪失など
実体経済への傷も深い。
海外の不景気化も影響し、
外需中心の企業も大きな痛手。
内需中心の企業にも波及する。
「底打ち感」による「回復の兆し」も
見られたが、国内外に多発する
不安要素がまん延、拡散。
デフレ感は継続中。
景気底上げ対策も
次々打ち切られ・縮小。
再び回復の兆しは見られたが
東日本大地震で再び状況は悪化。
一連の「景気ウォッチャー調査」に関する記事中でも繰り返し指摘しているが、今回の景気悪化(と復調)は、2001年から2003年にわたった「景気悪化」と「その後の回復・横ばい」パターンを踏襲するように見えていた。基本的に先月までは、2003年中盤以降のパターン「雇用指数がやや上側に位置し、その下に企業・家計指数がもみ合いながら展開する」を踏襲する予想に変わりはなかった。

同時にアノマリー(パターン・経験則)的な動向を形成する「見えない力」(いわゆる「神の見えざる手」)を打ち消すほどの「マイナス」の力が働く状況も確認されており、今後の動向は不確定要素が大きい中で「基準値50を天井とするもみ合い」が続くのではないかとする予想だった。とりわけ原油をはじめとする資源価格の高騰がじわじわと市民生活に影響を及ぼしはじめており、(ガソリン価格の上昇は個人ベースでの自動車運転のランニングコストを跳ねあげるだけでなく、輸送費の上昇で物流コストのアップ、そして小売商品の価格値上げにもつながる)、景気回復基調を打ち消すほどのものになりうる可能性すら秘めていた。

しかしながら今回の大幅下落からも分かるように、東日本大地震の影響は物理的な面だけでなく、心理的においても大きな衝撃となって現れた。本文中でも触れているが、現時点で未だに復旧ままならぬ(余震、そして原発周りでは状況は未だに安定化していない)状態にあるにも関わらず、すでに値はリーマンショック時のそれに届かんばかりの動きを見せている。

まずは余震の動向を見極め鎮静化を祈ると共に、原発周りの状況を安定化してこれ以上の悪化を防ぐ「前向きの」努力を各自が最大限行う事が求められよう。

なお今回の発表では特別編纂として【景気ウォッチャー調査・平成23年3月調査における東日本大震災関連のコメントについて(PDF)】が添付されている。地震周りのコメントが集約されており、小売・製造業の実情を推し量ることができる。時間があれば是非一度目を通すことをお勧めする。


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