アメリカの人種別出生率の詳細をグラフ化してみる(2015年)(最新)

2015/12/28 15:24

2015-1228人口問題や少子化対策などの話題が登る際、海外の参考にすべき事例としてアメリカ合衆国(以下アメリカ)が挙げられる。元々ヨーロッパからの移民などによって建国された特殊環境も一因であるが、多様な民族によって構成されており、移民政策に関してはオープンな部類に区分される国で、先進諸国の中では珍しく人口が増加する傾向にあるとして注目されている。一方そのアメリカでも昨今、これまでの状況・傾向がくつがえされそうな動きが統計から確認できる。今回はいくつかの公的データを基に、同国の出生率(合計特殊出生率)に関して、主要人種別の動向を確認していくことにする。

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まず「合計特殊出生率」との言葉だが、これは「一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数」を意味する。この値が2.0なら、単純計算で夫婦2人から子供が2人生まれるので(男性は子供を産まない)、その世代の人口は維持される。値を算出する際には各年齢(世代)の女性の出生率を合計することになる。ただし実際には多種多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07から2.08といわれている(これを「人口置換水準」と呼ぶ)。

元々今件記事は【産業構造審議会基本政策部会(第5回)配付資料】の資料【前回の質問・指摘事項について(PDF)】をきっかけにしている。ここには1990年から2003年までのデータが収録されている。そしてそれを元に、アメリカの疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)内にある【人口動態統計レポート(National Vital Statistics Reports)】から、人種別の合計特殊出生率(Total fertility rate)の詳細な最新データが含まれている「Births: Final Data for XXXX」のファイルを各年分たどり、「産業構造審議会基本政策部会」公開分の資料と合わせ、2009年分までの動向を示したのが次のグラフ。

↑ アメリカの主要人種別・合計特殊出生率推移(1990年から2009年まで)
↑ アメリカの主要人種別・合計特殊出生率推移(1990年から2009年まで)

今件グラフは1990年以降を対象としているものの、一部人種に関するデータが未記載など、やや不完全な部分がある。しかし主要区分における大まかな動向は把握できる。具体的には「アメリカ全体の出生率を押し上げているのはヒスパニック系の高値」「ヒスパニック系においては不景気時の出生率の減少ぶりも著しい(参考:【U.S. Birth Rate Decline Linked to Recession】。アメリカの出生率は景気が落ち込むと落ちる傾向があるとの研究レポート)」などである。また一方で、主要人種の中で一番低い値を示す白人系においても、日本の値と比べればはるかに高い数字を示しているのも確認できる(日本は2014年時点で1.42)。

今件につきCDCのデータを精査し直し、各レポートで公開されているすべての属性について値を抽出し、グラフを生成したのが次の図。各人種別では1989年以降のものが取得できたので、1989年以降を取り扱っている。また直近5年間の動向はやや詳しい形で別途描き起こした。なお白人・黒人に関しては非ヒスパニック系の値を適用している。

↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2014年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2014年)

↑ アメリカの合計特殊出生率(2010年-2014年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(2010年-2014年)

緩やかな動きを示していた合計特殊出産率だが、2007年から2008年を境に、どの人種においても明らかに漸減しているのが確認できる(アジア・太平洋諸国はやや持ち直しの機運もあるが、それも大きな戻し方では無い)。

この減少理由については諸説があり、そしてそのいずれもが単独で断定できるだけの理由とは成りえない(社会現象は多くの場合、多様な要因の結果生み出されるものである)。しかし2012年に公開されたブルームバーグのコラム記事【米国での出生率低下、その脅威とジレンマ】は、その主要因として十分納得のいくだけの説得力を持つ内容を記している。

そのコラムでは具体的にアメリカの出産率の低下理由として、「女性は自分たちの妊娠出産について、歴史上かつてないほどの力を手に入れている」「かつて子育て支援の役割を担っていた家族や地域社会の強い絆は、産業化や都市化によって断ち切られている」「女性を取り囲む経済状況は大きく変わっている」とした上で(日本の実情とも多分に似ている部分もある)、「多くの女性にとって、子どもは最も喜ばしく、最も贅沢な消費財というのが真実(中略)彼らは時間的にも金銭的にも高くつくため、中高所得社会では少なからぬ寂しさとともに、欲しいだけの子どもを持つ余裕がないとあきらめる女性が増えている」と説明し、金銭的余裕の欠乏から、子供を持つことをあきらめる、見方を変えれば「経済的な理由による少子化が進んでいる」と説明している。

つまりアメリカの出生率低下の原因は、いわゆる「先進諸国病」の症状の一つであるとの説明である。具体的には、経済的・文化的レベルが上がると、養育費は累乗的に増加し、世帯への子供一人あたりの負担も相応に増えるが、世帯所得の増加はそれに追いつかず、経済上まかなえる子供の数は減るとするものだ。

またこの解説に加え、「医学、科学技術、公衆衛生技術の進歩や経済の発達に伴い、乳幼児の死亡率が減少する」のも一因と考えられる。体力的な問題もあるが、出産した女性が新たに子をもうけるためには、それなりの多様なリソースが必要となる。しかし、乳幼児の育児の際にはそのリソースの確保が難しい。一方で乳幼児の段階でその子供が亡くなってしまった場合、次の出産へのリソース確保の機会はより早く得られるようになる。つまり少子化は「多死多産」から「少死少産」へのシフトの結果であるとするものだ。

この「経済的要因による少子化への動き」は、日本国内でも複数の調査結果から裏付けられている。例えば国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第14回出生動向基本調査」でも、「欲しいと思う子供の数」まで子供を持たない理由の最上位には「子育てや教育にお金がかかりすぎる」との回答が出ている。

↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)
↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)(再録)

数年前までは他の先進諸国における合計特殊出産率の低さを、対岸の火事のように見つめているだけだったアメリカ合衆国が、その川を渡り、自らも火の粉を受けている。直近の2014年では白人およびアジア・太平洋諸国で前年比プラスを示したことから、全体の合計特殊出生率もわずかではあるが増加したものの(グラフ上では同じ1.86だが、厳密には2013年は1.858で、2014年は1.863となっている)、予断を許さない状況には違いない。

なおこの直近年における上昇理由を母親の年齢階層別に見ると、日本同様に高齢出産化が進んだ結果であるのも確認できている。

↑ アメリカの出生率(母親の年齢階層別、2010-2014年)
↑ アメリカの出生率(母親の年齢階層別、2010-2014年)

興味深い話には違いない。

日本とは文化的な事由をはじめ諸条件が異なるため、一概に同じとは言い切れない。しかし検証とその結果を施策に活かす意味でも、日本国内の動向と共に、状況分析が求められよう。


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