出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(経年変化編)

2010/12/14 07:15

先に【出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる】で記したように、出版物の販売額の調査データを収録した書籍【2010年版『出版物販売額の実態』を調達】し、それを元に各種データの精査を行う不定期連載記事。今回は2009年も含めた過去10年間に渡る、出版物の売上高前年比推移を、種類別(「雑誌」「コミック」「文庫」など)に見ていくことにする。

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まずは書店における出版物の売上高では額面上大きな売上を占める3大分類「雑誌」「コミック」「文庫」(全体ではこの3区分で売上全体の約2/3に達する)、それに加えて「新書」の計4区分を抽出した、過去10年分における売上高前年比の推移を折れ線グラフにしたのが次の図。

↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)
↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)

「新書」の急激な下げがまず目に留まる。2000-2002年にもそれなりのマイナス値を見せていたが、2009年の下げはあまりにも急すぎる(マイナス14.7%)。少なくとも新書に限れば、2009年以降に大きな市場ニーズの変化が生じたと考えても間違いは無さそう。

一方それ以外の「雑誌」「コミック」「文庫」については、ここ数年特に耳にするようになった「出版不況」云々以前から、大した変移は見せていない。「文庫」がこの数年やや失速気味な雰囲気もあるが、この程度の下げなら2000年にも経験している。また「コミック」は2008年・2009年に前年比で大きく減じているが、2008年から2009年には復調の兆しもあり、もう少し長い目で見る必要を要する。それよりも、一番クローズアップされる機会の多い「雑誌」はここ一、二年ではなく、十年単位で減退傾向にあることが分かる(2000年前後に下げ、2004年あたりでやや戻しているところを見ると、単に景気動向に左右される可能性すら否定できない)。

続いて「児童書」「学参(学習参考書)」「辞典」「実用書」「地図旅行」。「地域密着型」や「学校用教材」が該当しそうな分野。なお「学参(学習参考書)」と「辞典」、「実用書」と「地図旅行」はそれぞれ2004年までは同一区分でカウントされていたため、それぞれは2004年までまったく同じ値となっている。2004年まで同じ区分内の項目は、同じ種類のマークを名前の後ろにつけて、把握できるようにしている。

↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)
↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)

2008年に「辞典」がバカ売れした理由が不明で首を傾げるところがあるのだが(※)、それ以外はこの10年間ではほぼ横ばいに見える。「地図旅行」「児童書」はこの3年ほどの間に下げ始める傾向をみせつつあるというところか。

最後に「文芸」「ビジネス」「専門」「その他」。このうち「ビジネス」「専門」については、やはり2004年まで同一項目でカウントされている。

↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他)
↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他)

「その他」とはここでは文具や図書券、セルビデオ、レジ回り商品文具を指す。【短所を長所に...電子たばこ付きの「本」、ミリオンセラーに】で紹介した電子たばこもここに含まれることを考えれば、2010年分はかなりの伸びが予想される。その「その他」項目は、この数年むしろ(前年比マイナスに違いはないが)復調の兆しすら見せている。

「ビジネス」「専門書」はこの数年マイナスを加速している雰囲気がある。しかしこの程度の下げなら2001-2002年にも経験しており、「未曾有の大ピンチ」という程でも無い。「文芸」に至ってはヒット作の状況次第で大きく左右される感があり、激しい乱高下を繰り返しているばかり。それといった傾向は確認できない。



以上ざっとではあるが、主要分類別に出版物の売上推移をチェックしてみた。「新書」はほぼ確実にこの数年、とりわけ2009年の下落ぶりが分かる。その他一部の項目でも直近二、三年における売上高減少の加速化の雰囲気は感じられるが、同レベルの下げは2000年過ぎあたりにも一度経験している場合が多く、「昨今はインターネットやケータイのせいで出版一大不況。もうダメだ」的な雰囲気を肯定するには、もう少し様子を見る必要がある。さらにそれを断言するには、相関関係ではなく因果関係を証明する証拠を見出さねばならない。

進化このような動きは【書店数とその坪数推移をグラフ化してみる(2010年・「出版物販売額の実態」版)】でも確認されている。一部分野では確かにインターネットや携帯電話の普及、その他社会環境の変化で窮地に追いやられている場面もあるが、むしろ似たような状況は過去に(恐らくは何度となく)経験している。携帯電話・インターネットはそれらの動きをちょっとだけ加速化させたに過ぎない。むしろ今回の「減退期」においては、電子書籍やメディアミックスなど、多種多様な方向性への展開という、新たな富肥市場をつかめる可能性すら用意されている。

【出版業界の決算状況をグラフ化してみる】で、全体として「耐える」時期には違いないものの、出版社の業績動向が二分化していることについて触れた。それらも合わせて考えると、昨今の「出版不況」は業界が進化を遂げるために課せられた試練のようなものなのかもしれない。

※2010/12/15 追記
2008年における辞典のイレギュラー的な伸びですが、この年10年ぶりに改訂された「広辞苑」の発売(第六版)と、【2008年辞典売上活性化の謎】で解説した「辞書引き学習」のブームによるものと思われます。

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