新刊書籍・雑誌出版点数や返本率推移

2010/10/23 07:25

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書籍先に【週刊ダイヤモンドの電子書籍入門号(2010年10月16日号)読了】にも記したように、『週刊 ダイヤモンド 2010年 10/16号』を購読した。電子書籍の現状を詳しく、包括的に解説した、非常に読み応えのある一冊だった。その特集記事の中に、『出版指標年報』を元にした過去20年間+αの新刊書籍・雑誌の出版点数や返品率を示すグラフが掲載されていた。今後の書店、書籍業界を読み説く上でも非常に役立つであろう資料なのに違いは無く、色々とデータを付け足たした上で、いくつかのグラフを生成することにした。


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元記事には1960年以降は10年単位、1990年以降は1年単位で雑誌・書籍の新刊出版点数(販売数ではない)と、雑誌・書籍の返本率が記載されている。ただし返本率は具体的な数字がないので、描き起こすことはかなわない。そこでひとまず、雑誌と書籍の新刊出版点数をグラフ化した。

ただ元グラフに説明はないが、このデータ、良く見ると、1995年に異様な盛り上がりを見せているのが分かる。実はこの年から、自主出版の点数も統計に追加する「新統計方式」を採用しているため、このような変移を見せており、連続性の上ではやや難がある。それでも貴重な資料に違いは無く、今回はあえてそのまま掲載することにした。

↑ 新刊書籍・雑誌出版点数推移(全国出版協会・出版科学研究所:2010出版指標年報)
↑ 新刊書籍・雑誌出版点数推移(全国出版協会・出版科学研究所:2010出版指標年報)

雑誌不況・書籍不況と呼ばれて久しいが、両方とも新刊の数は毎年増える傾向にある。言葉は悪いが「数撃ちゃ当たる」と呼ばれても仕方がない感はある(何しろ一般世帯の購入金額は【週刊誌や雑誌、書籍の支出額(拡大版)…(下)購入世帯率や購入頻度の移り変わり】にもあるように逓減しているのだから)。

さて問題の返本率。元グラフには1960年の「書籍31.6%」「雑誌27.7%」と2009年の「書籍40.6%」「雑誌36.2%」という2年分の数字しか具体値が挙げられていない。そこで色々調べたところ、2008年6月に【公正取引委員会が提示した資料(pdf)】に中期的なデータが収められているのを見つけた。これに直近数年分のデータを別所から補てんし、1987年以降のものについて完成させたのが次のグラフ。

↑ 返本率推移
↑ 返本率推移

1980年代前半あたりに上昇していた雰囲気はあるが、そこから下落して1990年前後に底を打ち、それ以降はじわじわと上昇を見せている。ただし書籍については1998年に一度大きな盛り上がりを見せてからはほぼ横ばいを維持したまま。雑誌の返本率上昇傾向は問題視すべきだが、書籍については返本率問題は前世紀末からの継続懸案だったことが分かる。1990年代末の返本率増加は、新古書店や漫画喫茶の台頭が一因だったことは容易に想像できよう。

なお返品された書籍の大半と雑誌の一部は注文品などに充当され再出荷されるので、返品はすべて廃棄されるわけではないことをここに書き記しておく。

さらに過去のデータをさぐる
せっかくなのでさらにデータを探したところ、具体的な数字までは判明しなかったが、貴重な公開データを見つけることができた。社団法人日本雑誌協会と日本書籍出版協会は創立50周年を記念して、2007年11月に刊行した「日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史」。このウェブ版が全ページ【公開されている】のだが、その中の【時代と出版(pdf)】項目の終わり近くの部分に「書籍・雑誌実売金額の推移」というタイトルのグラフがあり、そこには1971年-2006年までの雑誌や書籍の実売金額の他、返本率についても描かれていた。上のグラフにはない1988年以前のものが掲載されている半ページ分をくり抜いたのが次の図。

↑ 書籍・雑誌実売金額の推移(古い方半分)
↑ 書籍・雑誌実売金額の推移(古い方半分)

雑誌の返本率は1981年に25%程度を示したのが天井であとは横ばい。やはり1990年以降の漸増状態は「あまりよろしくない」ものであることが分かる。一方、書籍の返本率だが、実は1985年前後に現在とほぼ同じ40%内外を示しているのが確認できる。さらに調べるとこの時期に、書籍が文庫本にシフトする「文庫本シフト」の現象が起きており、これを「出版物を巡る構造的要因が変化する時に、返品率が高くなる」と説明する論文もある(【出版ビジネスモデルの検討(pdf)】)。むしろ昨今のように、「返品率が高くなるからこそ、出版物を巡る構造的要因が変化せざるを得なくなる」とも考えられるのだが、あるいは「ニワトリと卵」のように互いが作用しての結果と考えるのが一番無難なようだ。



「出版物を巡る構造的要因の変化」。要素は山ほどある。少子化と核家族化、可処分所得の減退、現在の出版関係のシステムの「金属疲労」化、コンビニの展開、趣味趣向の多様化、インターネットの普及、携帯電話をはじめとしたモバイル端末の浸透、そして電子書籍。しかしデータを見る限りでは、少なくとも書籍に関しては一度過去に似たような「返品率の増加に伴う『構造改革を求める声の高まり』」を経験しているはずで、それを乗り切れたからこそ、現在の出版・書籍業界がある。

ここ数年の電子書籍周りの流れを思い返すと、「過去の経験は活かせているのかな」という疑問符を頭に思い浮かべざるを得ない。遅れを取り戻すべく、尽力してほしいものだ。例えメディアが紙からデジタルに変わっても、「書籍」「雑誌」には違いないのだから。


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