【更新】吉野家は体制の変更が業績悪化のトリガーな可能性…牛丼御三家売上:2010年8月分

2010/09/11 12:00

【吉野家原点回帰で「牛鍋丼」発売】などにもあるが、この数年間色々な意味で大人しかった[吉野家ホールディングス(9861)]子会社の牛丼チェーン店「吉野家」周辺がこれまでとは打って変わって積極的な動きを見せている。もちろんライバルである牛丼御三家を構成する[松屋フーズ(9887)]が運営する牛飯・カレー・定食店「松屋」、[ゼンショー(7550)]が展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」も黙っているわけではないのだが、足踏み状態が続いていた「吉野家」としては珍しい傾向といえる。そこで以前【牛丼御三家の営業成績をグラフ化してみる】で解説した、各社の企業数や業績はどのように変化を見せているかについて、再度チェックしてみることにした。今回は御三家の業績変移がターゲットとなる。

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業績動向で気になるのはいわゆる「サブプライムローンショック」に始まる金融(工学)危機以降の動きなので、2007年夏以降のデータがあればよい。そこでそれなりに堅調な動きを見せていた2006年初頭から直近データの2010年8月までの、御三家の月次データ(売上高・客数・客単価の前年同月比)をそれぞれ抽出し、グラフ化する。幸いにも3社共似たような形式でデータを公開しており、比較的容易にまとめることができた。

まずは個々の営業成績について。なおこれらのデータはすべて「既存店」のもの。1年の間に新店舗数を増やして、客数などをかさ上げすることはできないので、念のため。

吉野家は次の通り。

↑ 吉野家業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)
↑ 吉野家業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)

2007年夏までは起伏が激しかったものの、特に2006年夏以降は堅調に推移していた。ところが2007年夏以降急激に客数・売上高共に減少を見せ、マイナス圏とプラスマイナスゼロを行き来。2009年以降は漸減の動きを見せている。客足が遠のき、結果として売上も落ちている形だ。

減少のきっかけとなった2007年10月前後だが「不景気で客足が遠のいた?」のならば簡単に説明はつく。しかし他の二社には同様の傾向が見られない。このタイミングで原因として考えられるのは、同社が持ち株会社に移行したことくらいであり、他の要因が無いことから、「体制の変更がトリガーとなり、客足が遠のいた」と推測できる。それを裏付ける証拠は何も無いが。

次は松屋。

↑ 松屋業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)
↑ 松屋業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)

牛丼だけでなくカレーなど多彩なメニューを取りそろえていることから、客単価の変動がやや大きめ。客数については2007年夏に落ち込みを見せたものの、その後じわじわと回復(とはいえ前年同月比ではマイナスだが)基調にあり、単価のかさ上げもあわせ、売り上げをトントンに維持していたのが分かる。

しかしリーマンショック以降は客単価も少しずつ落ち込む傾向が見える。あるいは方針を「客単価を下げてでも客数を増やすべき」に変えたのか、客数は増加するものの客単価が急に落ち込み、結果として売上も漸減してしまっている。

前回言及したように、一連の流れの中で特異点として目に留まる「2009年11月以降に客数が急に増え、客単価はそれに反する形で落ちている」期間だが、これは[牛丼の値下げキャンペーン(PDF)]によるもの。客単価の減少分以上に客数が増え、売上が増加しており、キャンペーンとしては(短期的には)成功した形。この劇的な変化をポジティブと判断したのか、【松屋の牛めし、9月も250円セールへ】でも触れているように、松屋側では断続的な値下げを継続。結果として客単価の減少も底打ちを見せ、一方で客数・売上高がウナギ昇り状態となっているのが確認できる。

最後にすき家。

↑ すき家業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)
↑ すき家業績推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)

客単価の変動傾向は多彩なメニューを持つ松屋と似たような感じ。ただし松屋と比べて客の入りは良く、結果として売上も堅調さを見せている。少なくとも2007年夏の「サブプライムローンショック」の影響もさほど無いようだ。ただしさすがにリーマンショック以降の2008年秋を過ぎると、客の購入意欲の減退や市場のニーズに伴う値下げにより、客単価は減少。さらに客数も100%を切るようになり、売上も低迷を始めている。

なお松屋同様に直近で2009年12月に大きく客数が跳ね、客単価が落ちている。原因も松屋同様に主力商品の【主力商品の牛丼を280円に値下げ(PDF)】したことが大きい。ただしこちらはキャンペーンでは無く継続的な値下げであること、さらに期間限定でさらなる値下げを行っていることが功を奏しているようで、客単価はすき家としては珍しく減少傾向を見せているものの、それ以上に客数・売上高が急上昇を記録しているのが分かる。

御三家の売上・客数を見比べると……
さて御三家の客数を併記してみると、意外なことが見えてくる。

↑ 牛丼御三家客数推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)
↑ 牛丼御三家客数推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)

100%のラインの上か下かで考えると、2007年以降吉野家は客数においてやや軟調(注意してほしいのは不景気が始まる前からこの傾向が見えていたということ)、松屋はそれにも増して今回データを取得した2006年以降客足が遠のき気味だったことが分かる。すき家も吉野家に近い傾向だが、2007年以降も100%超えの月も多く見られ、それなりに奮闘している模様。

それにも増して特徴的なのは、2009年秋以降の変移。

・吉野家……逓減。ライバルに客を奪われた? 直近ではやや持ち直し
・松屋……増加。断続的な主力商品の牛丼値下げキャンペーンが影響
・すき家……大幅増加。増加率も上乗せ継続。主力商品の牛丼の値下げ継続がリピータを集めている可能性

などが確認できる。前回(-2010年1月分データ)ではチェックできなかった、すき家の「牛丼値下げ継続による客足への影響」がここまで劇的に表れるとは少々驚き。

客単価は急激に変化するわけではないので(とはいえ、各社で分析したように吉野家横ばい・松屋とすき家が漸減には違いない)、売上高も客数にほぼ類する動きをみせている。

↑ 牛丼御三家売上高推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(前年同月比)(2006年1月-2010年8月)

リーマンショック以降全社が、緩やかな下降カーブを描いてい「た」のはご覧の通り。一方吉野家はそれ以前((A)部分)にも大きな下落が確認出来、客数の低迷とほぼ一致していることから、客の誘因に失敗しているのが分かる。

そして各社別のグラフでも言及したが、松屋・すき家が「客単価を下げるような値下げの分、客入りを多くすることに成功し、売上を上げている・低迷を抑える」ことに成功しているのに対し、吉野家はその方策ですらうまくいかないように見える。2009年末以降の売上の変移は、主力商品の牛丼の値下げへの姿勢がそのまま反映されているかのようですらある。



値下げで客数が増えるのは、その値下げで費用対効果の観点で「購入するに値する」と判断する人が増えるからに他ならない。例えば「500円なら高いけど、450円なら買ってもいいかな」というもの。

しかしおおもとの商品の魅力が値下げ後の価格以下と判断されていれば、いくら値下げをしても客数が増えることはあまり無い。多くの人に「これは300円くらいの価値しかないよね」と思われている、現在500円の商品が450円に値下げされても、やはり買う人は増えない。また、断続的にキャンペーンで値下げをする(松屋)よりは、継続的に値下げをした(すき家)方が、値下げの期間そのものの長さに加えて、お客がリピーター化しやすくなり、客も一層増えることが分かる。

牛丼を食らう最後に前回の記事で「売上よりも利益が大切」という意見を拝聴した。確かにそれも一理あるが、残念ながら月次の営業・経常利益報告はどの会社も行っていない。ただし主力商品の値下げがメインで売上・客数を伸ばしたと思われる松屋・すき家において、前年同月比のグラフの形を見ると、値下げ以降「売上高」「客数」の上下関係が逆転しているのが確認できる。

つまり「客数の増加分ほど売上高は上がっていない」わけだ(客単価が下がっているから当然)。値下げ前後の商品1つあたりの利益の相違、さらには店舗そのもののランニングコストは牛丼の価格を下げてもさほど変わりが無いことなどを考えると、「客数の増加と同じように利益も上がっている」とは考えにくい。それでも牛丼屋が基本的に「薄利多売」をビジネスモデルとしている以上、売上は非常に大きな要素。月次利益が公開されていないだけに、注目する価値はある指標といえよう。

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