雑誌や書籍の支出金額動向(半世紀版)(家計調査報告(家計収支編))(最新)

2023/05/26 02:37

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2023-0519先に【1か月の雑誌購入金額は約67円!? 雑誌や書籍への支出金額(家計調査報告(家計収支編))(最新)】などで平均的な世帯の「雑誌などに費やす金額」について、総務省統計局が2023年2月7日にデータ更新(2022年・年次分反映)を行った【家計調査(家計収支編)調査結果】の各種データを基に、いくつかの切り口から精査を行った。その記事で確認したのは単月・単年のみの状況だが、やはり気になるのは「これは昨今の出版不況を表したものなのか否か」との点。そこで過去の結果を探り、経年の動向値を集積してグラフ化し、その推移を調べることにした。

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戦後の新聞や雑誌などへの支出金額はどのように変わったのか


今件精査にあたっては、2004年分までは家計調査(家計収支編)を経由して、【日本の長期統計系列 第20章 家計】へ行き、「20-3-a 1世帯あたり年間の品目別支出金額および購入数量(二人以上の非農林漁家世帯)」を取得する。初期のデータで雑誌が別個にカウントされているものがあるが、これは合計値を算出し直しておく。そして2005年分以降は家計調査の各年の年次データを逐次取得していく。

なお日本の長期統計系列で取得した値は二人以上世帯のうち農林漁家世帯を除いたもので、家計調査から直接取得したものは(他の先行記事同様に)農林漁家世帯も含めたものであり、微妙に連続性に欠けるところがあるが、長期にわたるデータ変移では事実上無視できる範囲の差異しか生じないので、今回はあえて適用した上で精査を行う。日本の長期統計系列には農林漁家世帯を含めた時系列データも収録されているが、短期間のものしか存在しないため、精査には利用できない。

まずは年ベースでの「主要紙媒体の二人以上世帯における、1世帯あたりの平均支出金額」をそのままグラフ化したのが次の図。物価の変動を考慮していないので、当然ながら年数が経過するにつれて右肩上がりになる、はずなのだが。

↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、年あたり、種類別、円)
↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、年あたり、種類別、円)

↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、月あたり、種類別、円)
↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、月あたり、種類別、円)

【1950年と比べて8.51倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移(最新)】でも示したように、日本では1990年前後から物価は安定し、むしろ漸減する傾向がある。ここ数年で再び上昇の気配を見せている程度。それにあわせて…でもないのだろうが新聞は1990年あたりから横ばい、値上げによる一時急騰を見せるもやはり中期的には変わらず、さらには減少の傾向を見せている。雑誌はややタイミングが遅れ、2000年前後から低迷、漸減の傾向。インターネットやモバイル端末の普及時期と重なるだけに、興味深い。また、書籍は早くも1970年代後半から漸減傾向にあり、世帯単位では「書籍離れ」がこの頃から起きていたことが分かる。

さらに言えばここ数年は物価の上昇の機会があったにもかかわらず、支出金額は減少傾向を継続中。これまでの減少度合いと比べ、実質的な下げ基調は一段と加速化していることになる。今世紀に入ってからの凋落ぶりは、各先行記事に記した通りである。なお2019年以降において書籍が増加する動きを見せたが、これは「鬼滅の刃」など一部コミック誌の爆発的ヒットが影響した可能性がある(書籍には単行本や文庫本の他にまんが本と説明されているコミックも該当する。電子書籍は含まれない)。新型コロナウイルスの流行で在宅時間が延び、時間を費やす対象として書籍が選ばれたのも影響しているのかもしれない。

世帯人数の変化、お財布事情などを考慮してみる


一方【「お年寄りがいる家」のうち28.3%・638万世帯は「一人きり」(最新)】でも示したように、世帯あたりの人数は減少する傾向にある。「世帯構成人数が減っているのだから、世帯単位の購入金額が減っても当然」とする意見も理にかなう。そこで家計調査(家計収支編)における、各年の調査母体の平均世帯人数を考慮し、月あたりかつ1人あたりの支出金額を計算したのが次のグラフ。

↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、月あたり・一人あたり、種類別、円)
↑ 主要紙媒体の支出金額(二人以上世帯、月あたり・一人あたり、種類別、円)

新聞の値は(通常世帯単位で購入するため)無意味なので除いている。グラフの形状的には大きな違いはないが、書籍が1970年代後半をピークに減少しているわけではなく、横ばいの動きを見せていること、雑誌は1990年代後半で頭打ちなのが分かる。また2019年以降の書籍の一時的な上昇の動きもはっきりとしたものとなる。

「物価は変動するのだから、金額は時代の流れとともに変わって当然。物価を勘案した上で考察すべきだ」とする意見もあるだろう。1963年の100円と、2022年の100円とでは価値が全然違うのだから。

そこで消費者物価指数の推移をかけあわせて…としたいところだが、家計調査(家計収支編)の公開値には消費支出(世帯を維持していくために必要な支出)も併記されているので、これを活用する。こちらも物価の変化を十分反映しており、むしろ身近な感がある。すなわち、世帯単位で「家計のお財布にどれほど食い込んでいるか」の割合を計算し、グラフ化したのが次の図。

↑ 主要紙媒体の支出金額が消費支出に占める割合(二人以上世帯、種類別)
↑ 主要紙媒体の支出金額が消費支出に占める割合(二人以上世帯、種類別)

書籍は1960年代後半から1990年にかけてゆるやかに漸減した後は横ばい、金融危機ぼっ発あたりから再び漸減、ここ数年で持ち直しの気配。雑誌は1990年代後半以降横ばいだったがリーマンショック前後から減少、新聞は家計負担としては今世紀初頭までは漸増状態にあったことが分かる。出版社の売上との観点ではなく、個々の家計負担の立場から見れば、新聞は1970年代と同程度には買われていることになる(やや詭弁な感は否定しない)。

今世紀以降に限ると、新聞はやはり明らかに減少、雑誌や書籍も揃う形で漸減の感は否めない(今世紀以降の詳細は先行記事を参照のこと)。支出シェアの観点でも、これら紙媒体のポジションは少しずつ隅に追いやられつつあるようだ。特にここ数年の新聞の凋落ぶりは著しい。



新聞離れ、雑誌離れなどの紙媒体離れ。しかし最後のグラフにある通り、世帯における負担額で考慮すれば、書籍以外は概して十年単位の昔の基準に戻っただけであることが分かる。要は買い手のお財布事情が厳しいから割り当て比率が減ったまでの話。

仮に現状を紙媒体不況とするのなら、データ範囲内で最安値を更新している書籍はともかく、新聞や雑誌においては、これらの実情に状況改善のヒントが隠されているかもしれない。


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