主要テレビ局銘柄の直近中間決算…(4)放送事業で赤字を出した2社と気になること、そしてまとめ

2009/11/29 14:18

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テレビイメージ在京主要テレビ局(キー局)で上場をしている5局の2010年3月期(2009年4月-2010年3月)・2四半期(以後「中間期」)に関する各種財務データをグラフ化して色々と考えてみる企画記事パート4にして最後の回。ここでは放送事業で赤字を出した2社、すなわちTBSとテレビ朝日について、利益の面からもう少し詳しくチェックを入れると共に、気になったことを書き記すことにする。


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本業で赤字を出した2局、TBSとテレビ朝日
2010年3月期・中間決算において、放送事業の営業利益でマイナス、つまり赤字を出したのはTBSとテレビ朝日の2社。他の3社は黒字を計上している。

主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益(億円)(再録)
主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益(億円)(再録)

この2局について、事業区分(セグメント)別に売上と、営業利益率(どれだけ効率よく稼げるか)を示したのが次のグラフ。

TBS(9401)の2010年3月期・中間決算におけるセグメント別売上高(億円)と営業利益率
TBS(9401)の2010年3月期・中間決算におけるセグメント別売上高(億円)と営業利益率

テレビ朝日(9409)の2010年3月期・中間決算におけるセグメント別売上高(億円)と営業利益率
テレビ朝日(9409)の2010年3月期・中間決算におけるセグメント別売上高(億円)と営業利益率

一応両局ともテレビ放送事業がもっとも「売上」は大きい。仮にこれが一番で無い場合、放送法における「主たる事業」に該当しなくなる(と判断される可能性がある)ため、放送免許を取り上げられる場合もあるから、事は重大。

しかしながら両局とも、放送事業はまったく利益を生み出さず、他の事業の方が「稼ぎやすい」構造になっているのが分かる。特にTBSは、放送事業とはほとんど関係・関連の無い不動産事業の利益率がずば抜けて高い状態にある(その他事業も「調査・研究等」とだけ説明があり、放送事業とあまり関係はありそうにない)。

ここ数年のTBSの動向から「不動産放送局」「テレビ放送事業も行っている不動産企業」と揶揄する表現もあるが、あながちその指摘は的外れではない気がしてしまう。

日本テレビとテレビ東京のタイム広告の激減は偶然の一致?
さらに一つ気になったことは、以前【2010年3月期におけるキー局銘柄の第1四半期決算……(2)業績斜め読みと広告売上、利益率の変化】【日本テレビのタイム・スポット広告の変化】でも触れた、日本テレビとテレビ東京において「経費削減のマイナス作用が出始めているのではないか」という点。

主要5局の2010年3月期・中間決算におけるタイム・スポット広告前年同期比(再録)
主要5局の2010年3月期・中間決算におけるタイム・スポット広告前年同期比(再録)

主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益率(再録)
主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益率(再録)

主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益前年同期比(再録)
主要5局の2010年3月期・中間決算における放送事業営業利益前年同期比(再録)

■日本テレビ放送網・テレビ東京
…タイム広告の急激な減少
→個々の番組の魅力急降下
→経費削減の副作用の可能性
この3つのグラフを見比べてほしいのだが、経費の劇的な削減で放送事業の利益率を高めて利益を大きく伸ばした日本テレビとテレビ東京において、タイム広告の減少率が異様に高い値を示している。直接の因果関係を証明するデータは無いが、「経費削減がキツ過ぎたあまり、個々の番組の魅力・媒体力が減少し、それがタイム広告の出稿の大幅減につながったのではないか」(言い換えれば「経費ケチりすぎたせいで番組がつまらなくなった」)とする懸念がさらに強くなった感は否めない。

お金をかければ良い番組が出来、経費をケチれば魅力のない番組しかできない、というわけではない。しかし「経費の多い少ない」は番組の質を決める重要な要素になることは間違いない。以前の記事の繰り返しになるが、この推論が正しいとすれば、今後この傾向にはますます拍車がかかるようになり、両局の経費削減・リストラ策は「短期的には業績の上でプラスの効果を生み出しても、中長期的には大きな痛手となる」可能性を秘めていることになる。

なお、TBSも日本テレビとテレビ東京同様にタイム広告の減少率が高い。これは単にリストラ云々以前の、番組構成力の低下が要因だろう。【検索をすれば色々と関連記事が出てくる】ので、そちらを参考にしてほしい。



今回の一連の記事を箇条書きにまとめると次のようになる。

・全局とも番組への広告売上は減少。前年同期比ではスポット広告以上にタイム広告の売上減少率が著しい。番組構成そのものの危機。
・キー局5局のうち日本テレビ放送網とテレビ東京はコストカットを推し進め、売上が減少しているにも関わらず前年同期比で利益をプラスに押し上げることに成功した。
・日本テレビとTBS、テレビ東京はタイム広告の減少が顕著。個々の番組そのものへの媒体力、魅力が減少していると広告主に判断された可能性がある。そのうちTBS以外の2局は大規模な経費削減が原因かもしれない。
・TBSは放送事業「以外」の事業、不動産業への財務的偏りが進行中。
・TBSとテレビ朝日は、本業では利益をあげられない状態に。

【テレビCM出稿量の上位陣(2009年10月分)】など毎月の広告放送時間・回数などの変移を見ても、スポット広告の中で「他の広告主が入らなかった場合に埋める契約」を結んでいるフリースポット契約の広告が上位を占めるなど、テレビ放送に対する広告出稿は低迷を続けている。さらに今回の短信内容から、テレビ番組の命綱として非常に大切なタイム広告が、スポット広告以上に「全局」大きく減っていることが確認できた。

テレビイメージ百歩譲ってスポット広告の減少時には「不景気だから効果が薄めに見えるスポット広告を減らすのは仕方ないよね」と後解釈をすることも出来た。しかしタイム広告の減少は、景気云々以上に個々の番組に対する魅力への疑問符が、各広告主から打たれたことになる。そして個々の番組の魅力、すなわち存在価値が否定されれば、テレビ放送そのものは成り立たなくなるし、それは必然的にテレビ局そのものの生命線が断たれることを意味する。

例えるならピザ専門店で、これまではアイスやポテト、チキンなどの副惣菜・デザートの売上が落ちていたところ、今度は主力商品のピザそのものが売れなくなったようなもの。繰り返しになるが、利益・売上の金額そのものの減少以上に、事態は重大さを増している。このことを認識しなければならないのは言うまでもないだろう。

(終)

■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の直近中間決算…(1)業績概要】
【主要テレビ局銘柄の直近中間決算…(2)各社業績斜め読み】
【主要テレビ局銘柄の直近中間決算…(3)今や広告費の話題はスポット広告からタイム広告へ】
【主要テレビ局銘柄の直近中間決算…(4)放送事業で赤字を出した2社と気になること、そしてまとめ】


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